サプライチェーン排出量とは?定義、算定方法と企業事例

企業の気候変動対応の重要性が増す中、サプライチェーン全体の温室効果ガス排出量の把握・開示・削減が急務となっています。本記事では、サプライチェーン排出量の定義算定方法企業事例について解説します。

五十鈴株式会社の「icサーキュラーソリューション」は、現在のサーキュラーエコノミーが抱える課題に多面的にアプローチし、多用な手法を組み合わせて企業の環境経営を包括的に支援します。

INDEX

1.サプライチェーン排出量とは

サプライチェーンとは、原料調達・製造・物流・販売・廃棄等、一連の流れ全体をいい、そこから発生する排出量をサプライチェーン排出量と呼んでいます。
サプライチェーン排出量は、上流から下流までを含む、Scope1,Scope2, Scope3から構成されています。

参考:環境省・みずほリサーチ&テクノロジーズ  サプライチェーン排出量の算定と削減に向けて

温室効果ガスの算定・報告にあたっては、GHGプロトコルという国際的な基準が存在します。
そのGHGプロトコルにおいて、自社における燃料の使用等、自社における直接排出をScope1他社で生産された電力や熱等のエネルギーを使用することに伴う間接的な排出をScope2その他の事業に係る間接的排出をScope3と定義されています。

分類定義具体例
Scope1事業者⾃らによる温室効果ガスの直接排出燃料(ガソリン、軽油、A重油等)の使用、工業プロセス(化石燃料の生産、セメントの製造等)
Scope2他社から供給された電気、熱・蒸気の使⽤に伴う間接排出電力の使用、熱・蒸気の使用
Scope3Scope1、Scope2以外の間接排出(事業者の活動に関連する他社の排出)原材料の調達、従業員の通勤、販売した製品の廃棄等

サプライチェーン排出量=Scope1+Scope2+Scope3

Scope3はさらに15のカテゴリに分かれています。カテゴリ1~8「購入した製品やサービスに関する活動」を意味し、上流に位置づけられています。カテゴリ9~15は「販売した製品やサービスに関する活動」を意味し、下流に位置づけられています。

各カテゴリの詳細は以下の通りです。

カテゴリ具体例(一部)
1購入した製品・サービス原材料・部品の調達、販売に係る資材の購入、ソフトウェアの購入
2資本財⽣産設備、機器、建物、施設、車両の購入
3Scope1,2に含まれない燃料及びエネルギー関連活動調達した燃料の資源採掘・生産等、調達した電⼒の発電に使⽤する燃料の資源採取・生産等
4輸送、配送(上流)原材料の調達に係る自社までの物流等
5事業から出る廃棄物廃棄物(有価のものは除く)の⾃社以外での輸送、処理
6出張従業員の出張
7雇用者の通勤従業員の通勤
8リース資産(上流)自社が賃借しているリース資産の稼働(「算定・報告・公表制度」では、Scope1,2 に計上するため、該当なしのケースが大半)
9輸送、配送(下流)自社が販売した製品の最終消費者までの物流(自社が費用負担していないもの)
10販売した製品の加工販売した中間製品の第三者による加工・組み立て
11販売した製品の使用販売したエネルギーを消費する製品の使用(家電製品等)
12販売した製品の廃棄販売した製品本体の廃棄、製品に付す容器包装の廃棄
13リース資産(下流)⾃社が賃貸事業者として所有し、他者に賃貸しているリース資産の稼働
14フランチャイズ自社が主宰するフランチャイズの加盟者のScope1,2 に該当する活動
15投資株式投資、債券投資、プロジェクトファイナンスなどの運⽤
その他(任意)従業員や消費者の日常生活
参考元:環境省・みずほリサーチ&テクノロジーズ  サプライチェーン排出量の算定と削減に向けて環境省・経済産業省 サプライチェーンを通じた温室効果ガス排出量算定に関する基本ガイドライン (ver.2.7)

2.なぜサプライチェーン排出量を算定するのか︖

(1)報告の義務化の動き

温室効果ガスを一定量以上排出する事業者は、温室効果ガス排出量を算定し、国に報告することが「温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度」(通称SHK制度)にて義務付けられています。SHK制度の元で算定・報告が義務付けられているのは、概ねScope1,2と同じ範囲です。

さらに、金融庁はプライム市場上場企業に対し、有価証券報告書にSSBJ基準に基づいたサステナビリティ情報の開示を義務化する方針です。(2025年6月時点、出典:金融庁 第7回 金融審議会 サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関するワーキング・グループ

SSBJ基準というのは、日本企業向けのサステナビリティ情報の開示基準のことで、その基準にはScope1,2,3の開示が含まれます。そのため、今後ますますScope1,2,3の算定・開示の必要性が高まっていくでしょう。

(2)投資家や顧客・サプライヤーからの要請

投資家や顧客・サプライヤーといった様々なステークホルダーから、サプライチェーン排出量の算定・開示を求められるようになっています。

投資家からの要請の例としては、CDPという非営利団体が投資家に代わって世界の主要企業に質問書を送り、企業からの回答を元に各企業がどのような環境活動を行っているのか分析・評価を行う取組が挙げられます。2022年から日本では、プライム上場企業に質問書が送付されています。

CDPの質問書にはScope1,2,3に関する設問も含まれるため、投資家にとって企業の環境評価を行う上で、サプライチェーン排出量は重要な指標の一つと言えます。

顧客からの要請の例として、パリ協定と整合した温室効果ガス削減目標SBT(Science Based Targets)に取り組んでいる大和ハウス工業は、サプライヤーに対してSBT水準の削減目標を設定することを要請しています。SBT水準の目標にはScope3を含むことも多く、実質的にサプライヤーにScope1,2,3の算定と目標設定を要請していることになります。

自社のScope3を削減するには、サプライヤーの協力が不可欠であるため、他社を巻き込んだ取り組みが行われています。

(出典:環境省 SBT(Science Based Targets)について

(3)その他

サプライチェーン排出量の算定自社の事業活動に関する温室効果ガス排出量の全体像を把握することにつながるため、優先的に取り組むべきポイントに絞った効率的な削減活動を可能にします。

また、サプライチェーン排出量を算定し、削減を進めることで、新たなビジネスチャンスの創出につながる可能性もあります。例えば、輸送事業者が自社の削減活動の一環として、梱包の軽量化を行った場合、顧客のサプライチェーン排出量の削減にもつながるため、顧客にもメリットがあります。輸送事業者は、梱包の軽量化を売りとして、新たな市場や顧客の獲得につなげることも考えられます。

(出典:環境省・みずほリサーチ&テクノロジーズ  サプライチェーン排出量の算定と削減に向けて

3.サプライチェーン排出量算定の流れ

サプライチェーン排出量の算定は、以下の4STEPで行います。

①STEP1(算定目的の設定)

まず始めに、なぜサプライチェーン排出量を算定をするのか、算定目的を明確にします。例えば、「自社のサプライチェーン排出量の全体像を把握するため」「サプライチェーン排出量の削減箇所を把握するため」「SBTの認定を取得するため」が挙げられます。

サプライチェーン排出量の算定といっても、対象とする活動範囲や算定粒度は様々であるため、算定目的を明確にすることで、算定目的に応じた算定ができるようになります。

算定目的によって、必要な算定の範囲粒度工数が異なります。

②STEP2(算定対象範囲の確認)

次に算定対象とする範囲を設定します。算定目的データの取得可能状況等によって異なりますが、原則、以下の表の通り設定する必要があります。

区分原則、算定対象に含める範囲
温室効果ガス7種類(CO2, CH4, N2O, HFC, PFC, SF6, NF3)の温室効果ガス
組織的範囲自社及びグループ会社、上流下流に該当する事業者
地理的範囲国内及び海外
活動の種類サプライチェーンにおいて、GHGの排出に関するすべての活動
時間的範囲1年間(20XX年X月~20XX年X月)
参照:環境量 サプライチェーン排出量算定の考え方

③STEP3(活動内容のカテゴリ分け)

算定対象範囲の確認後は、Scope3の各カテゴリについて該当する活動を整理していきます。まずは、「1.サプライチェーン排出量とは」で記載した各カテゴリの概要を確認し、自社はどのカテゴリに該当するか確認をとっていきます。

Scope3には15のカテゴリがありますが、必ずしもすべてのカテゴリに該当する訳ではなく、例えばサービス業の場合、販売した製品の輸送や加工、使用、廃棄等、下流のカテゴリは該当しない場合があります

カテゴリ1と2や、カテゴリ4と9など、どちらのカテゴリに分類すべきか迷った場合や、全てのカテゴリを必ず含める必要があるのかといった実務を進めていく上で発生する疑問については、「環境省 経済産業省 サプライチェーンを通じた温室効果ガス排出量算定に関する基本ガイドライン (ver.2.7)」や「環境省 サプライチェーン排出量算定におけるよくある質問と回答集」が役立ちます。

※これらの資料は更新されることがあるため、最新版を参照することを推奨します。

④STEP4(各カテゴリの算定)

サプライチェーン排出量の算定プロセスの最終ステップは、各カテゴリごとの排出量を算定し、それらを合計して全体の排出量を算出することです。

サプライチェーン排出量の算定は、活動量に排出原単位を乗じて算定する方法が基本です。活動量とは、電気の使用量や貨物の輸送量など事業者の活動の規模に関する量を意味します。排出原単位とは、電気1kWh使用あたりのCO2排出量や貨物の輸送量1トンキロあたりのCO2排出量など、活動量あたりのCO2排出量を意味します。

4.算定方法

前述のサプライチェーン排出量の基本式を使用し、実際に数値を代入していきます。

Scope1,2については、燃料や電力の使用が主に該当する活動です。活動量は、燃料ごとの燃料の使用量(t, kL, ㎥)や電力の使用量(kWh)であり、社内で入手できるデータを収集します。

排出原単位については、燃料ごと、電力会社ごとの排出原単位を使用します。排出原単位は「環境省 算定方法・排出係数一覧」にて公開されています。

詳細なScope1,2の算定方法については、環境省の「温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度」のマニュアルを参照ください。

Scope3について、上記の図では代表的なカテゴリとしてカテゴリ1(購入した製品・サービス)カテゴリ4(調達輸送)を挙げています。

カテゴリ1の活動量は、原材料費や梱包材の費用など、購入した製品・サービスすべての金額または数量データが該当します。カテゴリ4では、原材料の総購入重量と輸送距離が該当します。

基本的には、活動量×排出原単位で算定しますが、カテゴリによって算定式が少し異なることがあります。各カテゴリの算定式の詳細については、「環境省 経済産業省 サプライチェーンを通じた温室効果ガス排出量算定に関する基本ガイドライン (ver.2.7)」を参照してください。

排出原単位については、基本的にはデータベースから選択します。代表的なデータベースには、環境省が無料で公開している「サプライチェーンを通じた組織の温室効果ガス排出量等の算定のための排出原単位データベース」や、一般社団法人サステナブル経営推進機構が有償で販売している「LCIデータベースIDEA」があります。

このように各カテゴリについて一つずつ算定式を確認し、必要な活動量データを収集し、データベースから排出原単位を選択して各カテゴリの排出量を算定し、最後に合算してサプライチェーン排出量を算出します。

5.企業のサプライチェーン排出量算定・削減事例

(1)大林組

大手ゼネコンである大林組は、2050年のカーボンニュートラル実現に向けた取組を進めています。
サプライチェーン排出量を把握した上で、2030年度の削減目標の設定を行い、パリ協定に整合した温室効果ガス削減目標であるとしてSBT認定を取得しています。

具体的な削減施策としては、Scope2について、再生可能エネルギーや非化石証書の活用により削減を進め、Scope3については、低炭素資材の活用等、環境に配慮した建設を進めています。これらの取組により、2023年度のScope1,2排出量は、2019年度比で16.8%削減しています。

出典:大林組 コーポレートレポート2024

Scope3のカテゴリ1(資材製造)とカテゴリ11(販売した製品の使用)についても、2023年度は2019年度比で17.2%の削減を実現しています。

出典:大林組 コーポレートレポート2024

(2)味の素

食品メーカーである味の素は、創業以来事業を通じた社会課題の解決に取り組んでおり、社会問題の中には地球環境の負荷削減・健康でより豊かな暮らしへの貢献が含まれています。
気候変動の取組の一つとして、温室効果ガスの算定及び削減目標の設定、削減活動に取り組んでいます。

出典:味の素グループ サステナビリティレポート2024

2030年、2050年に向けた温室効果ガス削減の戦略を策定しており、Scope1,2の削減に向けてはコージェネレーションシステムの導入、都市ガスへの燃料転換、非化石証書購入等を挙げています。

Scope3については、サプライヤーとの連携、新技術の開発・導入を挙げています。

上記2社の事例から、サプライチェーン排出量の把握は気候変動対応の基礎となる指標であり、そこから削減戦略の立案や施策の実施が始まると言えます。

6.まとめ

サプライチェーン排出量とは、原料調達・製造・物流・販売・廃棄等、一連の流れから発生する排出量です。

今後、有価証券報告書にサプライチェーン排出量の開示を含めたサステナビリティ情報の開示が段階的に義務化される予定であることから、サプライチェーン排出量の算定の重要性は増していくと考えられます。

まだ算定を行っていない企業は、サプライチェーン排出量の算定を求められた際に迅速に対応できるよう、サプライチェーン排出量の基本を押さえておくとよいでしょう。

監修

フリーランスとして、気候変動に関するコンサルティング、記事執筆に携わる。上場企業への気候変動情報開示支援の経験を元に、実務に活きる情報提供に強みを持つ。

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