銅のサーキュラーエコノミーとは?事例、需要見通し、リサイクル課題

銅は高いリサイクル性多用途性を備えた金属として、サーキュラーエコノミーの観点から注目されています。電気伝導性耐久性に優れた銅は、再利用によって資源の浪費を抑えつつ、環境負荷の軽減にも大きく寄与します。

本記事では、銅の有効活用がサーキュラーエコノミーの推進にどのように貢献するのか、さらに、銅のリサイクルや効率的な運用が脱炭素社会の実現にどのように役立つのかを解説します。

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1.銅のリサイクル性とサーキュラーエコノミーの関係性

サーキュラーエコノミーにおける銅の特性は、以下の通りです。

高いリサイクル性何度リサイクルしても電気伝導性や耐久性をほとんど損わない
多用途性再生可能エネルギーや電気自動車(EV)などに多く使用される
エネルギー効率の良いリサイクルプロセス銅のリサイクルは、新規採掘や精錬に比べて約85%のエネルギーを節約できる

銅は地球上の限りある資源であり、新規採掘が続けばいつか枯渇する可能性があります。

銅の特性を最大限活用することで、限りある資源を持続可能な形で利用し、サーキュラーエコノミーの構築に寄与することが期待されています。

ここでは、銅のリサイクル性とサーキュラーエコノミーの関係性を解説します。

(1)サーキュラーエコノミーとは?わかりやすく解説

サーキュラーエコノミーとは資源を効率的・循環的に利用することで環境負荷を軽減し、持続可能な社会を目指す経済システムです。従来のリニアエコノミーとの比較を以下に示します。

サーキュラーエコノミーリニアエコノミー
資源の使用方法資源を最小限に使用→再利用・リサイクル資源を採掘→製品を生産→廃棄
環境への影響廃棄物削減・資源効率の向上廃棄物の増加・資源枯渇のリスク

従来のリニアエコノミーは、資源の採掘から製品の廃棄までを直線的に行う仕組みであるため、資源の枯渇廃棄物の増加といった深刻な課題を抱えています。

一方でサーキュラーエコノミーは最終プロセスが廃棄ではありません。

資源の効率的な利用と再利用を重視し、廃棄物と汚染を限りなく削減することで、持続可能な経済を目指す仕組みです。

(2)サーキュラーエコノミーにおける銅の重要性

引用:https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/shigen_jiritsu/pdf/002_04_00.pdf

銅は電気・電子機器・自動車・建築資材など幅広い分野で使用されており、その需要は年々増加の傾向にあります。

以下では現状や今後における銅の重要性について解説します。

①銅のリサイクルに関する現状

現状の世界と日本における銅のリサイクル率と目標は、以下のとおりです。

対象区域現状のリサイクル率目標
日本14%50%(2040年)
世界28%50%(2050年)

参考:https://globe.asahi.com/article/15006530

日本ではJXが銅のリサイクルにおける主導的な役割を果たし、リサイクル原料の割合を現在の14%から2040年に50%まで引き上げる目標を掲げています。

2020年のデータでは、世界で生産された銅半製品の28%がリサイクル材によるものでしたが、今後さらに高い目標が求められています。

世界全体でリサイクル率50%を達成できれば、2050年の供給不足を解消できると試算されていますが、精錬技術の開発やスクラップを回収する仕組みなどが課題となっています。

②銅の需要に関する今後の見通し

電気自動車(EV)の需要再生可能エネルギー技術の発展に伴い、今後の銅需要はさらなる拡大が見込まれています。

国際エネルギー機関(IEA)の調査によると、EVに必要な銅量はガソリン車の約3倍に達し、2030年までの銅需要の大幅な増加が予測されています。

また、EUは2020年12月、リチウムイオン電池関連の法改正案を発表し、以下のリサイクル率に関する目標を設定しています。

EUにおける銅のリサイクル率の目標
2025年90%
2030年95%

参考:https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/shigen_jiritsu/pdf/002_04_00.pdf

同法案では銅とともにコバルトやニッケルといった他の重要金属にも同様の基準を適用し、資源循環の包括的な促進を目指しています。

(3)銅のリサイクル性

品質を損なうことなく何度でも再利用可能な特性から、銅は永遠の金属とも呼ばれています。銅のリサイクル性に関するポイントは、リサイクルにおけるエネルギー効率の高さとCO₂の排出削減にあります。

リサイクルプロセスが採掘や鉱石精錬に比べて単純化されることで、再生銅の生産では新規採掘と精錬に比べて最大85%のエネルギーを削減することが可能です。

さらに再生銅の利用は環境負荷軽減に直結しており、1トンの銅をリサイクルすることで、新規採掘と精錬と比較して約3.6トンのCO₂排出を削減できるとされています。

2.銅がサーキュラーエコノミーで注目される理由

リサイクル性に優れる銅は、サステナブルな社会の実現において有益な資源です。銅がサーキュラーエコノミーを実現する素材として注目される理由について解説します。

(1)高い電気伝導性と熱伝導性

銅の強みの一つが、高い電気伝導性熱伝導性です。

電気自動車や冷暖房装置の分野でその需要が拡大しており、リサイクル性との組み合わせにより、サーキュラーエコノミーの実現を力強く支えています。

銅の電気伝導率の高さは、バッテリーや配線効率の向上に寄与し、EVの普及を支えるうえで重要です。

さらに、銅は品質を損なわずにリサイクル可能であり、電気自動車の増加に伴う需要拡大に対応可能です。

銅そのもののリサイクルに適した特性に加えて、サーキュラーエコノミー実現に重要度の高い素材としても注目されています。

(2)再生可能エネルギー技術の中核材料

銅は採掘資源に頼らずとも、人工資源のリサイクルによって、再生可能エネルギーの活用に役立てられる資源です。

再生可能エネルギー技術実現のために、大量の銅を地球から採掘しているようでは、持続可能性が損なわれてしまいます。再生可能エネルギー領域において、銅が活躍しているのは以下のようなケースです。

  • 電気自動車のモーターコイル
  • ソーラーパネルの電極
  • 風力発電設備その他蓄電池

風力発電設備では、銅がタービンの内部配線に使用され、電力を効率的に変換・送電する役割を担います。1基の風力タービンには約3トンの銅が使用される場合があります。

ソーラーパネルでは、銅が電極として使用され、電気を効率的に集める役割を果たしています。

銅のリサイクル推進により、地球環境への影響を最小限に抑えながら、再生可能エネルギー技術をさらに進化させることが期待されています。

(3)リサイクルしても品質が劣化しない

銅の強みは、リサイクルした場合でも品質が劣化しない水平リサイクルが可能な点にあります。リサイクル後も品質が劣化しない銅の特性は、持続可能な資源利用において大きな利点です。

この特性により、銅は半永久的に利用可能な素材として、環境負荷を軽減しながら経済価値を維持し、サーキュラーエコノミーの推進を力強く支えています。

(4)低コストでリサイクルできる

リサイクル技術の進化により、全体的な負担は軽減されつつあるものの、依然として費用やエネルギー効率が課題となるケースが多く存在しますが、銅に関しては例外的で、リサイクルにおける経済的に優れています。

銅のリサイクルそのものにかかる費用や、エネルギー排出が他の素材よりも比較的少なく、採掘よりも経済的です。

3.銅のリサイクルに関する課題

銅のリサイクルはサーキュラーエコノミーの実現や、その生産性の高さから注目を集めている一方、実現に際しては課題もあります。

(1)不純物の混入

天然資源の銅とは異なり人工資源の銅には、純粋な銅以外の付着物も数多く残されているため、不純物を効率よく排除できる仕組みを確立する必要があります。

また、精製処理の際に全ての不純物を排除できるとは限りません。わずかに残留した不純物が再生銅の品質を落とし、銅としての機能が期待通りに得られなくなる可能性が残ります。

積極的な再生銅の活用を推進していきたい場合、この不純物の混入リスクをどれだけ小さくできるかが課題となるでしょう。

(2)廃棄物の不適切な処理

人工資源としての銅をどれだけ確保できるかは、既存の廃棄プロセスを最適化できるかどうかにもかかっています。

どれだけ有益な人工資源が社会の中に残されているとしても、それらが不適切なプロセスで廃棄されてしまっているようでは再資源化の余地がありません。

銅リサイクルの拡大を進める上で、不純物混入のリスクを最小化することが重要な課題となるでしょう。

4.銅のリサイクルの一般的な流れ

一般的に、銅のリサイクルは以下のような手順で行われています。

(1)廃棄物の収集と分別

まずリサイクルのための廃棄物の収集が必要です。金属工場などで発生する銅くずなどを収集、あるいはリサイクル処理場に運搬されてくるものを待ちます。廃棄物をセンターで分別し、生成のための原料を確保します。

(2)銅の選別と前処理

運ばれてきた廃棄物はリサイクルしやすいよう、粉砕します。その上で他の不純物や金属と銅を分けて、原料をブレンドすることで精錬のための前処理を行う工程です。

(3)銅くずの溶解と精錬

銅の原料は、精錬場で融解し、再生銅へと生まれ変わります。再生銅も自然採掘された銅と同じように、溶かされた後にインゴットとして形状が整えられ、再生銅として出荷されていきます。

(4)リサイクル銅の再製品化

リサイクルされた銅は、それを必要とする企業によって購入され、銅資源として用いられます。リサイクルされた銅の使用後も上述の工程を経て、さらに再資源化されます。

このように、一度銅のリサイクル循環を構築することができれば、自然採掘資源への依存度を最小化したうえで、銅資源を豊富に活用することが可能です。

5.銅のリサイクルに伴う経済的・環境的なメリット

銅のリサイクルを実現できれば、経済的・環境的に多くのメリットを享受できます。ここでは、銅のリサイクルに伴う経済的・環境的なメリットを解説します。

(1)環境への負荷を軽減

銅の自然採掘には大きなエネルギー消費が発生するだけでなく、採掘の過程で生じる廃棄物や鉱毒などにより、地域住民や採掘者の健康状況を悪化させます。

銅のリサイクルによって採掘の必要性が減少し、森林破壊や生態系の損失を防止できます。土地利用の持続可能性を高める効果も期待できるでしょう。

(2)新たな雇用機会の創出

リサイクルに伴う作業工程の増加や、技術の高度化により、従来の鉱山業を代替する形で多くの雇用が創出される見込みです。

銅リサイクルが生む具体的な雇用機会には、リサイクル施設の運営や技術開発と研究職などがあります。

分別技術や精製技術を開発するエンジニアリング分野や運送業、回収業者の雇用が拡大することが予想されています。

(4)企業イメージの向上

引用:https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/thoughtleadership/2024/assets/pdf/consumer-survey-on-sustainability2023.pdf

再生可能エネルギーの積極利用は、SDGsの観点からも強く推奨されています。

サステナビリティ課題に対する理解と共感を示す割合は2022年から2023年にかけて1.5倍になっていることから、消費者や投資家が環境に配慮した事業を行う企業を選好する傾向が強まりつつあります。

再生銅の積極的な運用は、競合企業との差別化を図る重要なポイントにもなりえるでしょう。

(5)カーボンニュートラルの推進

銅の自然採掘を減少させることで、採掘や精錬に伴う膨大なエネルギー消費や温室効果ガス(GHG)排出を抑制し、脱炭素社会の実現に貢献します。

現状では銅のリサイクルの際に発生するエネルギーの消費量や、二酸化炭素排出量についても懸念される部分も残ります。

しかしこれらの要素を加味しても、自然採掘の負担の方が大きく、自然資源の保全と再生を促せる側面があることから、銅のリサイクルがもたらす効果は魅力的と言えるでしょう。

6.銅のリサイクルに関する取り組み事例

銅のリサイクルについては、すでに複数の企業が実践を進めています。ここでは、銅のリサイクルに関する取り組み事例について解説します。

(1)サステナブルカッパー・ビジョン

引用:https://www.jx-nmm.com/sustainabilityreport/2023/strategy/feature/sustainable-copper.html

サステナブルカッパー・ビジョンとは、銅を脱炭素資源として強く認識し、持続可能性の高い銅資源の供給とその改善に向けた施策を指す、JX金属独自の戦略です。

JX金属ではかねてより、リサイクル原料の増処理を進めるべく、鉱石が発する酸化反応熱を最大限に利用し、化石燃料使用量を最小化するグリーンハイブリッド製錬を推進してきました。

銅のリサイクル性を活用するとともに、精錬時のエネルギー消費をさらに削減する取り組みを進めることで、銅を活用したESG(環境・社会・ガバナンス)施策が今後も展開されていくとされています。

また、銅のリサイクル原料比率を高めて自然採掘銅の必要性を小さくしていき、サーキュラーエコノミーの実現にも貢献しています。

(2)太陽光パネルの銅をほぼ100%回収

画像引用:https://project.nikkeibp.co.jp/ms/atcl/19/feature/00007/00071/?ST=msb

三菱ケミカルグループの新菱では、太陽光パネルに用いられている銅を100%に近い形で回収できる仕組みを実現しました。

太陽光パネルのリサイクルには2010年ころから取り組みはじめてきた同社ですが、2022年の段階で、製品を構成するガラスや銀、銅といった金属を、ほぼ100%回収することに成功しています。

同社が実現する高度なリサイクルシステムを活用することで、1Mw分の太陽光発電所の処理にあたり、およそ200トンもの二酸化炭素排出を抑制することが可能です。

また、太陽光パネルと合わせてOA機器のリサイクルネットワークも持ち合わせており、豊富な領域のリサイクル推進において、今後同社の活躍が期待されています。

(3)100%リサイクル電気銅

画像引用:https://www.jx-nmm.com/products/cu_again.html

JX金属では銅のサステナブルな供給に向けた、マスバランス方式を採用する100%リサイクル電気銅施策の推進も行っています。

100%リサイクル電気銅とは、100%リサイクル減量によって生産されている電気銅のことです。不純物濃度や物性を均質に保つことのできるマスバランス方式によって、クオリティのばらつきを最小限に抑えた上で電気銅を供給することができます。

7.まとめ

銅は金属の中でも再利用が容易に行いやすい資源であり、リサイクルによって得られるメリットも大きく、持続可能な経済システムの構築に活用できることが特徴です。

銅のリサイクル実現に際しては、いくつか乗り越えるべき課題も存在します。銅のリサイクル性向上は、サーキュラーエコノミーの実現や脱炭素化、そして資源不足の到来に備える上でも大切な課題です。

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