金属リサイクルの現状と課題を解説|取り組み事例からわかる対策方法

金属リサイクルは、使用済み製品や解体される建築物などから金属を回収・処理し、再資源化されて新たな製品に生まれ変わります。

本記事では、金属におけるリサイクルの現状並びに課題、環境にもたらす影響金属リサイクルの取組事例をご紹介します。

INDEX

1.金属リサイクルとは

金属リサイクルとは、使用済み製品や金属が含まれる廃棄物の中から金属だけを選別し、新たな金属として再利用することです。

金属リサイクルは、金属の使用状況金属素材の性質・特性によって選別方法抽出方法が異なり、必要な金属だけを取り出せる高度な選別技術と抽出技術が求められます。

またリサイクル時には不純物が混ざりやすい傾向にあり、高純度の金属精錬も求められます。

資源の効率的な利用方法として有効な金属リサイクルですが、採掘資源自然破壊を抑制します。

さらに資源の有限性も相まって、金属リサイクルの需要は高まる傾向にあります。

(1)金属のリサイクル率

金属のリサイクル率は、金属の素材によって異なり、鉄やアルミのようにリサイクル率の高い素材がある一方で、抽出が困難なためにリサイクルが進んでいない金属素材もあります。

環境省のデータを基に、リサイクルされている金属を抜粋したものが下表です。


金属種別
リサイクル率
使用済み製品加工・工程内くず他素材随伴
ベースメタル鉄(Fe)少ない極めて少ない
銅(Cu)半数程度極めて少ない
亜鉛(Zn)極めて少ない極めて少ない
鉛(Pb)少ない少ない
アルミニウム(Al)少ない極めて少ない
スズ(Sn)極めて少ない
レアメタルチタン(Ti)極めて少ない
バナジウム(V)極めて少ない極めて少ない
クロム(Cr)極めて少ない
マンガン(Mn)半数程度
コバルト(Co)極めて少ない少ない
ニッケル(Ni)半数程度極めて少ない
ガリウム(Ga)多い
ジルコニウム(Zr)極めて少ない
ニオブ(Nb)極めて少ない
モリブデン(Mo)極めて少ない極めて少ない
アンチモン(Sb)極めて少ない
テルル(Te)少ない
セシウム(Cs)極めて少ない
タンタル(Ta)少ない
タングステン(W)極めて少ない極めて少ない
貴金属パラジウム(Pd)少ない極めて少ない
白金(Pt)少ない少ない極めて少ない
金(Au)少ない極めて少ない
銀(Ag)極めて少ない極めて少ない
ロジウム(Rh)少ない

特に有名な金属として、鉄とスチール缶のリサイクル率は顕著です。鉄鋼材料で90%以上スチール缶は約93%を維持しています。

鉄鋼材料とスチール缶のリサイクルは、何度行っても極めて劣化が低い水平リサイクルが可能なことでも有名です。

リサイクルされている金属の多くは、ベースメタルとレアメタルの一部、貴金属の一部のみです。その他の金属は、リサイクルが遅れている、もしくはリサイクルされていません。

(2)金属リサイクルの現状と課題

引用:環境省 「使用済製品中の有用金属含有量と国内需要量との比較」

環境省によると、国内需要量に占める割合が高い金属は、ベースメタル(鉄・銅・アルミニウム・鉛・亜鉛)です。

自動車や家電製品、IT機器類に使用されている有用金属の年間国内需要に占める割合は30%超えです。現状、ベースメタルの多くは建築材料に用いる鉄鋼製品に使用されています。

一方、レアメタルの年間国内需要量に占める割合は80%を超えています。主に家電製品に使用されるアンチモンやビスマスの割合が高いです。

国内の使用済み製品金属を含む廃棄物から有用金属をすべて回収し、リサイクルできれば資源を有効利用できます。

ただし、磁性がない金属は素材回収に高度な技術力が求められる場合があり、その他にも国内ではレアメタルの高度な回収技術が確立されていないなどの課題もあります。

以上のことから、金属リサイクルのプロセスにおける新たな技術開発が求められています。

(3)リサイクル可能な金属の種類

同じ金属内でも、種類によってリサイクルのしやすさが異なります。

以下では、リサイクルの可否について、金属を鉄金属と非鉄金属に分けて解説します。

①鉄金属

鉄は「クローズドループリサイクル」とも呼ばれ、半永久的にリサイクル可能です。

多くの鉄金属は磁性を持ち、回収が容易で何度リサイクルしても劣化しづらい特性があります。廃棄物の中でも最終処分される割合が数%と極めて低く、リサイクル率の高い金属です。

主な鉄製品は、建築材料(鉄筋・電気配線・ダクトなど)や自動車、鉄道レール、家電製品、産業機械などです。

②非鉄金属

非鉄金属に含まれる銅、アルミニウム、亜鉛、鉛、ニッケル、金、銀、白金、パラジウムなどはリサイクルできます。非鉄金属も鉄金属同様、何度でもリサイクル可能です。

非鉄金属は、リサイクル過程で化学的性質を失わない特性を持っています。さらにアルミニウムなどの素材は、わずかな消費エネルギーでリサイクルを可能にします。

また、非鉄金属には市場価値のある金、銀以外にレアアースを含むレアメタルもあります。レアメタルは希少価値が高く、リサイクルにおいて大きな収益を得られます。

ただし、非鉄金属がリサイクル製品に占める割合は、わずかな量であり、リサイクル時には金属の性質に応じた処理が必要です。

2.金属リサイクルのプロセス

金属リサイクルの一般的なプロセスをご紹介します。

(1)廃棄物の回収

まず、使用済み製品や金属を含む廃棄物の回収を行います。

金属はさまざまな製品に使用されており、回収方法は法律や自治体で厳密に定められています。

工場や施設などから大量に廃棄される金属製品は、専門業者に依頼して回収します。少量であれば、自治体が行っている廃棄物処理場産業廃棄物として持ち込みます。

(2)解体工場で分別・洗浄

回収された金属および金属を含む製品は、すべて解体工場に運ばれます。

搬入された使用済み製品や金属を含む廃棄物は、金属とその他に分別され、金属の素材別に細かく仕分けられます。

また、金属に油分や汚れ、ラミネート、ラベルなどが付着している場合は、洗浄工程で除去します。

その後、破砕機裁断機を用いて細かく粉砕し、小さな破片にすることで後工程の金属を溶解する際に効率的な精錬を行えるようにします。

(3)金属リサイクル工場で再資源化

細かく粉砕した金属片は、金属素材に応じた各リサイクル工場へ搬入し、再資源化されます。搬入された金属は、金属に応じて高炉電気炉を使い分けて溶解します。

溶解後、精錬工程に移行して不純物を除去し、純度の高い金属を生成します。不純物が多いほど、純度が低く強度や品質などに影響するため、不純物は選別時にできる限り除去することが重要です。

精錬された金属は、冷却や圧延工程などを経て、使用用途に応じた形状に成形されます。

成形された金属は、一般製品と同様に製品化されます。

また、一部製品化できない金属は、最終処分場で埋め立て処理されます。

3.金属リサイクルから作られる製品の具体例

金属リサイクルから作られる主な製品を、下表で紹介します。

分類材質再製品
鉄金属主に鉄鋼製品の原料棒鋼、H鋼、鋼板、建築用鉄筋、フェンス、自動車部品、家電製品など
非鉄金属アルミニウムアルミ地金の原料アルミ缶、展伸材、車両部品、建築材料など
電線や伸銅の原料
電気鉛、再生鉛バッテリー、電子機器部品、放射線の遮蔽材
亜鉛亜鉛地金の原料自動車、顕在、家電製品、黄銅製品、銅合金、乾電池、ゴム、タイヤ、電子部品、塗装、機械部品など
スズスズ地金電気・電子機器、缶詰、飲料缶、一斗缶、自動車のフロントがrす・建材窓ガラス、産業機械、通信・電力など酸化スズは、ガラス製造工程の添加剤や工業用顔料に使用
ニッケルニッケルを含むステンレス鋼や特殊鋼の原料自動車、家電製品、電気、機械、電池など
チタン鉄鋼添加用のフェロチタン原料航空等のジェットエンジン、火力・原子力発電の復水器、屋根材、二輪車のマフラー、医療、民芸品など
マグネシウムアルミ添加剤構造材(自動車機器、電子・電気、電動工具など)、添加還元材(アルミ、チタン、化学、鉄鋼)

4.金属リサイクルがもたらす環境への影響

金属リサイクルは、環境にもたらす影響が大きく、サステナブルな社会を実現させるために欠かせない取り組みです。

ここでは、金属リサイクルがもたらす環境への影響を解説します。

(1)廃棄物の削減

金属リサイクルは、廃棄物の削減に効果的です。過去には、粗大ごみとして冷蔵庫や洗濯機などが当たり前のように廃棄されていました。現在では、リサイクルに関する法律を整備したことを機に企業や消費者に浸透しています。

その結果、鉄やスチール缶、アルミ缶、家電製品(4品目)などのリサイクルが推進され、大幅に減少しています。

(2)資源の有効利用

金属リサイクルは、天然資源の有効利用に役立てられるため、新たな天然資源の採掘量を低減できます。

なかでも、鉄やアルミニウムなどの金属は、リサイクルしても高純度を維持し、高品質な再資源として有効利用が可能です。

金属の原料となる鉱物の素材によってはあと50年未満で枯渇するリスクがあることから、早い段階で金属リサイクルに取り組めば、枯渇リスクを低減できます。

(3)温室効果ガス排出量の削減

金属リサイクルを有効に活用できれば、廃棄物の減少だけでなく廃棄物処理施設の熱処理で発生する温室効果ガス排出量まで削減できます。

現在、温室効果ガスの排出が原因と考えられる地球温暖化が深刻化しており、政府主導でカーボンニュートラルに取り組んでいます。

金属リサイクルに取り組むことで、金属生産時に必要な消費エネルギーなども抑制できることから、温室効果ガスの排出量削減に貢献できます。

(4)コスト削減

金属リサイクルは、何度リサイクルしても科学的性質に変化が極めて少なく、高品質の再資源として利用価値が高い取り組みです。

そのため、新たな天然資源を活用するより、低価格で再資源化が可能なリサイクル資源を活用すれば生産コストを削減できます。

(5)新たな雇用を創出

金属リサイクル事業は、新たな雇用機会を生み出し、地域経済の活性化にも寄与します。

特に、レアメタルのリサイクル技術開発は、高度な専門知識を持つ技術者や研究者を必要とし、雇用創出に直結します。

使用済み製品からレアメタルを効率的に回収する技術の開発は、リサイクル業界の成長を加速させると同時に、企業の収益増加にも貢献します。さらに、これらの取り組みが地域の雇用拡大にもつながり、循環型経済の促進を支える重要な要素となります。

金属リサイクル事業には、今後のビジネスチャンスが広がっており、企業の成長を支える重要な分野と言えるでしょう。

5.金属リサイクルの注意点

金属リサイクルには、コストや不純物などの注意すべき点も存在します。ここでは、金属リサイクルの注意点を解説します。

(1)市場価格が比較的安い

量産品に使用される鉄などの市場価格は比較的安価で、海外需要や輸出量も停滞している状態です。

さらに輸出している鉄スクラップの相場価格が下落すれば、国内の鉄スクラップ価格も少なからず影響を受けて下がるため、リサイクルを検討する際にはコスト面の問題が生じる場合があります。

(2)回収率が低い

金属素材の種類によっては回収率が低い場合があります。

鉄スクラップやスチール缶、アルミ缶などは高い回収率を維持していますが、レアメタルなどの素材は低い回収率となっており、その要因には、回収が困難なことが影響しています。

また、アルミニウムを原料とするアルミ箔の場合、製品に薄い膜のように付着しており、選抜が困難で回収しづらく、そのままごみとして廃棄されているケースが多いです。

金属の回収率を上げるには、容易に回収できる仕組みを構築することが必要があります。

(3)不純物混入による製品純度の低下

金属は不純物の混入により、製品純度が低下する場合があります。

純度は強度にも影響を及ぼし、品質低下の原因となり、使用用途製品化が局所的となる可能性があります。

高純度の製品を生成するには、使用済み製品や金属を含む廃棄物を選別する際、できる限り不純物を除去することが大切です。

6.金属リサイクルの取り組み事例

民間の団体や企業が行っている金属リサイクルの取り組み事例を3つご紹介します。

(1) リチウム電池のリサイクル

引用:https://j4ce.env.go.jp/casestudy/073

一部の民間企業では、使用済みリチウムイオン電池に含まれる金属回収に取り組んでいます。

リチウム電池には、リチウム、コバルト、ニッケルなどのレアメタルが使用されていますが、使用済みリチウム電池を解体するには、感電や発火の恐れがあり、取り扱いが極めて困難です。

さらに金属価格の変動に左右されることから、安全面に考慮しつつ効率的な回収が求められています。

困難とされていたリチウム電池に含まれる金属回収ですが、民間企業の新たな技術開発により、安全性の確保と効率的な分離回収を実現しています。

複数の大型焼却炉を活用し、使用済みリチウム電池を熱処理することで感電などのリスクを軽減し、その結果、鉄、銅、アルミ、リチウム、コバルト混合物など、それぞれ精錬原料の資源として再利用されています。

参考元:公益財団法人 地球環境戦略研究機関(IGES)

(2) 廃棄する太陽光パネルの有用金属をリサイクル

引用:https://j4ce.env.go.jp/casestudy/200

ある企業は、廃棄する太陽光パネルに含まれる有用金属のリサイクルに取り組んでいます。

太陽光パネルのリサイクルには課題があり、リサイクル後の再資源化が確立されていませんでしたが、さまざまな素材を有することからその将来性に注目が集まっています。

太陽光パネルは、アルミフレームやガラス、太陽電池セル、ジャンクションボックスなどを組み合わせて作られています。

解体した際に発生する太陽電池セルや封止材などを称したものがセルシートであり、同社ではセルシートの金属リサイクルに着目し、銀、銅、鉛の回収処理を行っています。

参考元:公益財団法人 地球環境戦略研究機関(IGES)

(3)官民一体となったマテリアルリサイクルの技術開発

引用:https://j4ce.env.go.jp/casestudy/130

大手電機製品メーカー6社と一般社団法人家電製品協会、小売業者、国・自治体が一体となり、マテリアルリサイクルの技術開発に取り組んでいます。

使用済み家電製品の解体作業は手作業で行っていたため非効率でしたが、作業効率を改善するため、新たに技術開発した解体専用ロボットを導入し、作業の効率化を図っています。

さらにリサイクル工場の要望を聞き、ガイドラインを作成して製造事業者などに環境配慮設計支援を行っています。

取り組みの結果、マテリアルリサイクル重量は、取り組み当初2001年時点で21万1,000トン、2019年には51万9,000トン(18年間で約2.5倍増)にまで増加しており、業務効率化にも貢献しています。

参考元:公益財団法人 地球環境戦略研究機関(IGES)

7.まとめ

金属リサイクルは、金属素材の種類によってリサイクル率は大きく異なります。

鉄やアルミなどは回収が容易でリサイクルは進んでいますが、レアメタルは、使用済み製品からの回収が難しく、思うようにリサイクルが進んでいません。

しかし、金属リサイクルは、天然資源採掘量の低減地球温暖化の抑制に効果があるため、地球規模としては早急に取り組むべき課題でもあります。

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