\当サイトおすすめNo.1サイト/

監修
秋本 繁大
早稲田大学法学部卒業後、金融機関での法人営業を経て、中小企業向け専門紙の編集記者として神奈川県内の企業・大学・研究機関を取材。
2013年から2020年にかけては、企業のサステナビリティレポートの企画・編集・ライティングを担当。2025年4月よりフリーランスとして独立。
企業活動と社会課題の接点に関する実務経験が豊富で、サステナビリティ分野での実践的な視点に基づく発信を強みとしている。
気候変動や人権問題への対応、ESG投資の拡大など、企業を取り巻く環境は大きく変化しています。こうした中で注目されているのが、「サステナビリティ経営」です。これは単なるCSRの延長ではなく、環境・社会・経済の持続可能性を経営戦略に組み込み、中長期的な企業価値の向上を目指す経営手法です。
本記事では、サステナビリティ経営の定義、目的、導入によるメリット、さらに実践のポイントなどを具体的に解説します。
五十鈴株式会社の「icサーキュラーソリューション」は、多様な手法を組み合わせて企業の環境経営を包括的に支援します。
サステナビリティ経営とは、企業が経済的な成長を図りつつ、環境保全や社会的責任を果たすことを経営戦略に組み込む手法です。従来のように短期的な利益のみを追求するのではなく、長期的な企業価値の向上と持続可能な社会の実現を目指します。
たとえば以下のような具体的な取り組みが挙げられます。
こうした取り組みは単なる社会貢献にとどまらず、企業のブランド価値の向上やリスク回避、投資家からの評価向上にもつながります。実際、ESG(環境・社会・ガバナンス)を重視する機関投資家は、サステナビリティに真剣に取り組む企業を投資先として優先する傾向が強まっています。
実際に、世界最大規模の機関投資家でもある年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は、ESG(環境・社会・ガバナンス)やインパクトを考慮した「サステナビリティ投資」を推進しています。
出典:GPIFのHP「GPIFのESG投資について」
サステナビリティの重要課題については、以下の記事をご覧ください。
サステナビリティ経営の中核をなすのが、「環境(Environment)」「社会(Social)」「経済(Economy)」の3つの観点です。これらはESG(環境・社会・ガバナンス)やCSRの考え方とも重なる要素であり、いずれも企業の持続可能性に直結します。
環境(Environment) | CO₂排出量の削減、再生可能エネルギーの導入、廃棄物のリサイクル・資源循環の推進など |
---|---|
社会(Social) | ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)の推進、安全で働きがいのある労働環境の整備、公正な取引の実現など |
経済(Economy) | 責任ある投資判断、サステナブルな製品・サービス開発、リスクマネジメント体制やコーポレートガバナンスの整備など |
これらの3要素は互いに独立しているのではなく、段階的・構造的に関連しています。
たとえば、環境に配慮した製品開発が社会的支持を集め、結果的にブランド価値が向上し、収益性にも寄与するといった好循環です。
環境 → 社会 → 経済の順で着実に取り組むことで、企業は競争力を強化しつつ、ステークホルダーとの信頼関係も深化させることができます。
サステナビリティ経営が強く求められるようになった背景には、企業の事業活動が社会や環境に大きな影響を与えている現実があります。たとえば、気候変動や森林破壊、水質汚染など、環境問題の深刻化などです。
持続可能な社会の構築のためにも事業活動における、環境への配慮や社会的責任の強化などが求められています。以下では、サスティナビリティ経営が求められる主な理由について解説します。
近年、投資家や金融機関の間でESG(環境・社会・ガバナンス)を考慮したサステナブル投資(ESG投資)の比重が高まっています。具体的には、以下のような傾向があります。
このように、サステナビリティに積極的な企業は、資金調達の容易さやブランド価値の向上といった経済的メリットを得る可能性が高まっており、取り組みの有無が競争優位性に直結する時代となっています。
各国で、環境・労働・情報開示に関する法規制の強化が進んでおり、企業は以下のような国内外のルールへの適応を迫られています。
国内法の例 | ・環境基本法、大気汚染防止法、水質汚濁防止法 ・労働基準法、男女雇用機会均等法、企業内容等の開示に関する内閣府令など |
---|---|
国際的な規制・基準の例 | ・CSRD(企業サステナビリティ報告指令) ・EUタクソノミー(環境に配慮した経済活動の分類基準) ・TCFD(気候関連財務情報開示) ・SFDR(ESG投資開示規則) ・コーポレートガバナンス・コード など |
これらの基準はグローバル展開していない企業にも波及するケースがあり、たとえばサプライチェーンを通じた間接的関与でも、投資家や取引先から説明責任を問われることもあります。
国際的な規制・基準について、それぞれ以下で詳細を解説しています。
サステナビリティ情報の開示について
2023年1月31日、企業内容等の開示に関する内閣府令等の改正により、有価証券報告書等において、「サステナビリティに関する考え方及び取組」の記載欄を新設し、サステナビリティ情報の開示が求められることとなりました。また、有価証券報告書等の「従業員の状況」の記載において、女性活躍推進法に基づく女性管理職比率・男性の育児休業取得率・男女間賃金格差といった多様性の指標に関する開示も求められることとなりました。
出典:金融庁HP「サステナビリティ情報の開示に関する特集ページ」
CSRD(企業サステナビリティ報告指令)について
CSRD(Corporate Sustainability Reporting Directive:企業サステナビリティ報告指令)とはEUのサステナビリティ開示規制であり、2023年1月5日に発効し2024年1月1日に開始する会計年度から適用が開始されています。CSRDの目的はEUにおけるサステナビリティ報告の一貫性を高め、金融機関、投資家、そして広く一般の人々が比較可能で信頼できるサステナビリティ情報を利用できるようにすることにあります。
出典:PwCのHP「CSRD(企業サステナビリティ報告指令)対応支援」
EUタクソノミーについて
EUタクソノミーとは、欧州連合(EU)が策定した「環境に配慮した持続可能な経済活動」を定義・分類するための法規およびその枠組みです。この「タクソノミー(taxonomy)」という言葉自体は「分類」を意味し、EUタクソノミーは、どの経済活動が環境的に持続可能であるかを明確にするための共通基準を提供します。
出典:電力中央研究所「EUにおける「タクソノミー」の動向」
TCFDについて
TCFDとは、G20の要請を受け、金融安定理事会(FSB)*により、気候関連の情報開示及び金融機関の対応をどのように行うかを検討するため設立された「気候関連財務情報開示タスクフォース(Task Force on Climate-related Financial Disclosures)」を指します。TCFDは2017年6月に最終報告書を公表し、企業等に対し、気候変動関連リスク、及び機会に関する項目について開示することを推奨しています。
出典:TCFDコンソーシアム「TCFDとは」
SFDRについて
SFDRとは、「Sustainable Finance Disclosure Regulation(サステナブルファイナンス開示規則)」の略称で、2021年3月10日に欧州連合(EU)によって施行された金融規制です。この規則は、金融市場参加者や金融アドバイザーに対して、ESGに関する情報の開示を義務付けるもので、金融商品のサステナビリティ関連情報の透明性向上と標準化を目的としています。
SFDRの主な目的は、投資家が金融商品の持続可能性に関する情報をわかりやすく比較できるようにし、グリーンウォッシュ(実態の伴わない環境配慮の誤認を防ぐこと)を防止することにあります。
出典:EY「サステナブルファイナンス開示規則(SFDR)が金融機関にもたらす影響 ~高まるグリーンウォッシュへの懸念~」
コーポレートガバナンス・コードについて
コーポレートガバナンス・コード(Corporate Governance Code、略称CGコード)とは、上場企業が適切な企業統治(コーポレートガバナンス)を実現するために参照すべき原則や指針をまとめたガイドラインです。企業経営の透明性や公正性を高めて企業の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を目指すこと、株主や顧客、従業員、地域社会など多様なステークホルダーとの望ましい関係性を築くことを主な目的としています。
出典:東京証券取引所「コーポレートガバナンス・コード ~会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上のために~ 」
企業がグローバル市場で生き残るためには、サステナビリティ経営やESGへの対応を経営戦略の一環として組み込むことが不可欠です。
欧米を中心に、持続可能性を重視する企業が市場で高く評価される傾向にあり、日本企業もこれに遅れを取らないために、以下のような変革が求められています。
このように、サステナビリティ経営は単なる社会貢献ではなく、競争力の源泉として捉えられる時代に移行しています。
サステナブル製品・サービスの開発事例は、以下のとおりです。
【事例】ヤシノミ洗剤で環境負荷を低減(サラヤ)
ヤシノミ洗剤は「高い生分解性」「無香料・無着色」「持続可能なパーム油調達」「現地環境保全活動」など、製品ライフサイクル全体で環境負荷低減に取り組むサステナブルな日本製品です。水質汚染防止への貢献に加え、原料生産地の熱帯雨林保全や野生動物保護にも直接的に寄与している点が大きな特徴です。
出典:https://www.yashinomi.jp/concept/
【事例】Panasonic GREEN IMPACT(パナソニック)
パナソニックでは2030年までに事業運営全体でネットゼロ達成を目指し、2050年に向けてサプライチェーン全体でのCO₂削減を推進しています。
省エネ家電や太陽光発電システムの普及、生産拠点での廃棄物ゼロ化、再生可能エネルギー導入など、製品・事業活動の両面で脱炭素化を進めています。
出典:Panasonic GREEN IMPACT(パナソニック)
【事例】さまざまな機会で双方向の対話を実施(小松製作所)
コマツは「透明性の高い経営」を目指し、国内外の幅広いステークホルダー(顧客、協力企業、販売代理店、社員、地域社会、投資家、株主など)と積極的な双方向対話を実施しています。具体的な取り組み例として、社長やCFOによる業績・方針説明会を年数回開催し、その内容をインターネットで公開。国内外の機関投資家や個人投資家向けに定期的な説明会や工場見学も実施しています。
社員に対しては「社員ミーティング」を定期開催し、経営環境や課題について社長自らが説明、質疑応答を通じて意見交換を行っています。
地域社会とも「事業所フェア」などのイベントを通じて交流し、事業活動への理解を深めています。
出典:さまざまな機会で双方向の対話を実施(小松製作所)
サステナビリティ経営とESG経営は、企業の持続可能な発展を支える重要な概念ですが、アプローチや機能の役割に明確な違いがあります。
サステナビリティ経営 | ESG経営 | |
---|---|---|
企業にとっての役割 | 経営の「目的」や「理念」を示す | サステナビリティ実現のための「実行手段」「管理指標」 |
定義 | 環境・社会・経済の持続可能性を重視した経営理念 | 環境・社会・ガバナンスの視点で企業を評価・管理する経営手法 |
目的 | 企業と社会の長期的な持続的成長の実現 | 投資家・市場からの信頼を得るためのリスク管理と情報開示 |
対象とするステークホルダー | 社会全体(消費者、地域、従業員など広範囲) | 主に投資家、株主、金融機関 |
評価軸 | 長期的なビジョン・企業価値・社会的インパクト | ESGスコア、非財務情報の開示、リスク・機会の把握 |
つまり、サステナビリティ経営が「企業としての長期ビジョン」であるのに対し、ESG経営はそのビジョンを達成するための「行動指針・管理ツール」といえます。
企業がサステナビリティ経営とESGの両方をバランスよく統合することで、環境・社会・ガバナンスのリスク管理を強化し、持続可能な成長を促進できます。
ESG経営については、以下の記事をご覧ください。
サステナビリティ経営は、企業の長期的な成長と社会的責任を両立させる重要な戦略ですが、その導入にはメリットだけでなく、いくつかの課題も伴います。以下では、サステナビリティ経営のメリットとデメリットについて詳しく解説します。
環境や社会に配慮した経営姿勢は、企業イメージの向上や社会的信頼の獲得につながります。
近年は、エシカル消費やサステナブル商品への関心が高まっており、環境配慮型の商品・サービスを提供する企業は、消費者や地域社会から高い評価を得る傾向にあります。
また、SDGsへの貢献や地域活動への参加は、企業の社会的価値を高め、新規顧客・取引先の獲得やビジネスパートナーとの関係強化にもつながります。
サステナビリティ経営は、エネルギー使用量の削減や廃棄物の削減といった運用コストの最適化にも貢献します。
たとえば、再生可能エネルギーの導入や工場設備の省エネ化、資源の再利用といった施策を進めることで、長期的なコスト削減と収益性の向上が可能となります。経済性と環境配慮を両立できる点は、企業経営上の大きな利点です。
ESG(環境・社会・ガバナンス)を重視した経営は、投資家や金融機関からの評価を高める要因となります。特に、国連責任投資原則(PRI)への署名機関の増加に象徴されるように、ESG対応は資金調達における新たな“信用力”と見なされつつあります。
気候変動への対応、温室効果ガスの削減目標、ESG情報の開示といった具体的な取り組みは、企業の透明性や成長性を示す指標として、金融市場でも高く評価されています。
出典:野村證券「PRIとは」
ESG情報の開示が金融市場で評価された事例は、以下のとおりです。
【事例】サステナビリティ・テーマ型投融資:累計5兆円(第一生命)
サステナビリティ・テーマ型投融資で社会的インパクトの計測・開示を発行体に促しています。2030年までにサステナビリティ・テーマ型投融資累計5兆円目標、社会課題解決に向けた案件選定とモニタリングを進めています。
出典:サステナビリティ・テーマ型投融資:累計5兆円(第一生命)
【事例】運用における責任投資の基本方針に基づくエンゲージメント(野村アセットマネジメント)
「運用における責任投資の基本方針」に基づいた重点テーマを責任投資委員会で決定し、重点テーマに沿って運用調査部門でエンゲージメントを実施しています。これらの活動を統括するエンゲージメント推進室を2021年に設置しました。同室には運用担当者も兼務しており、投資先企業に関するエンゲージメントの要望を伝達するほか、エンゲージメントの状況を把握し投資判断に反映しています。2023年は2,086のテーマについてエンゲージメントを行いました。
2022年12月末にマイルストーン管理の対象であった934件のうち、303件については完了に至っています。
出典:運用における責任投資の基本方針に基づくエンゲージメント(野村アセットマネジメント)
サステナビリティへの取り組みは、社会課題に関心の高いミレニアル世代やZ世代の求職者から支持を得やすく、優秀な人材の獲得につながります。多様性を尊重した働き方や働きやすい環境整備により、従業員のモチベーションやパフォーマンスが向上し、優秀な人材の確保や離職防止にも寄与します。
また、環境保全や地域貢献に参加できる企業文化は、従業員の帰属意識やモチベーションを高め、離職率の低下や職場満足度の向上といったプラスの効果を生み出します。人材は企業の最大の資産であり、サステナビリティ経営はその基盤を支えます。
気候変動、資源価格の高騰、法規制の強化、サプライチェーンの分断など、企業を取り巻くリスクは複雑化しています。サステナビリティ経営は、これらの環境・社会・ガバナンス関連リスクを体系的に管理するための有効な手段です。
たとえば、TCFD(気候関連財務情報開示)に沿ったリスク開示や、ESGリスクの定量評価を行うことで、早期対応と備えが可能になり、経営の安定性が高まります。結果として、サステナビリティ経営は突発的な環境・社会変化にも強い、レジリエンスのある企業体質の構築に寄与します。
サステナビリティ経営における「調達優位性」とは、持続可能性の観点から調達活動(仕入れや購買)を戦略的に見直すことで、競合他社よりも優れた立場を確保することを指します。これはコスト削減やリスク回避だけでなく、ブランド価値の向上や市場での信頼獲得にもつながります。
たとえば、再生可能資源や地域資源を活用し、価格変動の影響を受けにくい仕入れ体制を構築するといったコストでの優位性のほか、環境・人権リスクを排除し、調達先のトラブル(児童労働、森林破壊など)を回避するリスク管理の点で優位となります。
企業がサステナビリティ経営に取り組む際には、業務プロセスの変更が必要です。そのため、労働時間や人件費の増加が懸念されます。たとえば、環境に配慮した製造工程や原材料への切り替えによって、製造原価が上昇する可能性があることから、初期投資や運用コストの負担が避けられません。
ただし長期的な視点でみれば、ブランド価値の向上などによる競争力強化につながる側面もあるため、コスト増加を戦略的に捉えることが重要です。
特に、サステナビリティの意義に対する理解が進んでいないステークホルダーに対しては、取り組み内容がコストアップや利便性低下と見なされることもあります。
販売機会の損失リスクを回避するには、ステークホルダーとの継続的な対話を通じて、企業の方針や長期的なビジョンを共有し、共通認識を構築することが大切です。また、変更の影響を最小限に抑えるために、段階的な導入・代替案の提示も有効です。
サステナビリティ経営を企業全体で推進するためには、経営層・ミドルマネジメント・現場の間で共通認識と連携が必要です。
しかし現実には、経営層の方針が十分に伝わらなかったり、現場での実践につながらなかったりするケースも多く見られます。また、ESG施策のKPI(成果指標)や評価基準が未整備の企業では、効果測定や社内浸透が進みにくいという課題もあります。
社内研修やコミュニケーションの強化、KPIの設定、ミドル層へのリーダーシップ研修などを通じて、組織全体での理解と実行力を高めることが不可欠です。評価指標を明確にすることで、従業員の意欲や貢献も可視化され、サステナビリティ活動の継続性が高まります。
サステナビリティ経営の出発点は、自社の現状を正確に把握することです。これは、将来のビジョンを構築するための土台となります。まず、SDGs(持続可能な開発目標)やカーボンニュートラルとの整合性を踏まえ、2030年〜2050年といった中長期スパンでのビジョンを策定します。
その上で、環境・社会・経済の3側面から現状を多角的に分析し、実態と理想とのギャップを可視化することが重要です。
また、マテリアリティ(重要課題)を特定するプロセスも欠かせません。ステークホルダーにとって重要なテーマを洗い出し、優先順位を設定することで、戦略的な意思決定の基盤をつくります。
戦略の構築では、SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)の視点が不可欠です。
SXとは、企業と投資家との対話を通じて、収益性と持続可能性を両立させる経営変革を意味します。つまり、単なるCSR的な活動ではなく、経営の中心にサステナビリティを据える考え方です。
達成基準の明確化における具体例は、以下のとおりです。
数値や期限を具体的に定めることで、社内の意識統一と進捗管理がしやすくなります。
【事例】2030年までにCO₂排出量をネットゼロ(三井不動産)
2030年度までに40%削減(2019年度比)、2050年度までにネットゼロという当社グループの温室効果ガス排出量の削減目標達成に向け、サプライチェーン一体となって行動を推進しています。新築・既存物件における環境性能向上や物件共用部・自社利用部の電力グリーン化などの5つの行動計画を策定しています。
出典:2030年までにCO₂排出量をネットゼロ(三井不動産)
設定した目標を実現するためには、バックキャスティング思考を用いて、あるべき未来から現在に立ち返って行動計画を立てることが有効です。SDGsやESGの視点を取り入れつつ、次のような各部門別の具体施策を検討します。
人材戦略 | 将来を担う人材の採用・育成方針 |
---|---|
サプライチェーン | 調達先の環境・人権対応状況の確認・見直し |
リスクマネジメント | 気候変動リスクや法規制への対応強化 |
事業開発 | 脱炭素・循環型社会に貢献する新規事業の創出 |
さらに、施策の実行にあたっては従業員への説明と巻き込みが不可欠です。なぜ今この取り組みを行うのか、どのような価値を生むのかを丁寧に伝えることで、社内の理解と協力が得られやすくなります。
実施のタイミングとしては、中長期の経営計画策定や経営陣の交代、会社設立の節目、年度末の業績報告などを活用すればスムーズに導入できます。
実施段階に入ったら、次は社外への情報開示が必要です。これは、企業の姿勢を示すと同時に、ステークホルダーとの信頼関係構築に不可欠です。開示手段としては、以下のようなチャネルを活用できます。
情報開示では、透明性・客観性・簡潔性が求められます。数値やKPIの提示を通じて、企業の進捗や課題を正直に伝えることが信頼向上につながります。
サステナビリティ経営は、計画して終わりではなく、定期的なモニタリングと改善を通じて成熟させていく必要があります。
KPIやESG指標などを用いて進捗状況を数値で可視化し、達成度や課題を評価します。未達成の目標に対しては、原因を分析し、施策の見直しや追加対策を行います。
このプロセスは、PDCA(Plan・Do・Check・Act)サイクルで継続的に実施します。
この改善プロセスを継続することで、企業のサステナビリティ経営はより強固なものとなり、社会的信頼や投資家からの評価も高まります。
サステナビリティ経営を効果的に推進するためには、企業単独での取り組みだけでなく、制度的な後押しや外部支援の活用が重要です。ここでは、サステナビリティ経営を支援する主な制度・サービスをいくつか紹介します。
環境省では、以下の政策を通じて脱炭素経営への取り組みを支援しています。
政策 | 内容 |
---|---|
地域脱炭素推進交付金 (地域脱炭素移行・再エネ推進交付金、特定地域脱炭素移行加速化交付金等) | 意欲的な脱炭素の取組を行う地方公共団体等に対して、地域脱炭素推進交付金により支援 |
ゼロカーボンシティ実現に向けた地域の気候変動対策基盤整備事業 | 地方公共団体における脱炭素化(ゼロカーボンシティの実現)のための基礎情報を整備・提供 |
地域脱炭素実現に向けた再エネの最大限導入のための計画づくり支援事業 | 再エネの最大限の導入と地域人材の育成を通じた持続可能でレジリエントな地域づくりを支援 |
地域レジリエンス・脱炭素化を同時実現する公共施設への自立・分散型エネルギー設備等導入推進事業 | 災害・停電時に公共施設等へエネルギー供給が可能な再生可能エネルギー設備等の導入を支援 |
業務用建築物の脱炭素改修加速化事業(経済産業省・国土交通省連携事業) | 既存業務用施設の脱炭素化を早期に実現するため、外皮の高断熱化及び高効率空調機器等の導入を支援 |
脱炭素型循環経済システム構築促進事業 | 脱炭素化に資する資源を徹底活用する技術の社会実装に向けた実証事業を行っている |
地域脱炭素の推進に向け、再エネ導入計画の支援や公共施設への分散型エネルギー設備導入、地域人材育成などを含む多様な交付金制度が整備されています。加えて、業務用建築物の高断熱化や省エネ設備の導入、資源循環を促進する実証事業など、脱炭素型の経済・社会システムを構築するための支援も拡充されています。
日本政府は、この他にも多くの政策を通じて脱炭素経営を支援しています。
経済産業省や厚生労働省、金融機関においてもサステナブル経営の実現を支援しています。
制度・事業名 | 内容 |
---|---|
事業再構築補助金 | 新分野展開や業態転換等の事業再構築を支援。SDGsやESG経営の推進が審査で有利に働く(中小企業庁) |
ものづくり補助金 | 生産性向上やイノベーション創出の設備投資を支援。SDGs推進が加点要素となる場合あり(中小企業庁) |
サステナビリティ・リンク・ローン(SLL) | 社会・ガバナンスに関するKPI達成で金利優遇。企業の取組実効性を高める(民間金融機関) |
ソーシャルボンド(社会的債券) | 教育、福祉、インフラ整備等、社会的課題解決に資金使途を限定した債券(日本政策投資銀行など) |
SDGsやESG経営推進は、雇用・福祉・地域活性化・ダイバーシティなど幅広い分野で加点や優遇要素となる補助金・助成金が多くなっています。
サステナビリティ経営の体制構築や人材育成、情報開示義務化など、経営全体への支援も拡充されています。金融機関もサステナビリティ経営導入支援の役割を強化しています。
サステナビリティ経営は、環境・社会・経済のバランスを保ちつつ、持続的な企業成長を目指す経営手法です。
メリットだけでなく、コスト面や体制整備の課題もありますが、支援制度やツールを活用することで実践可能です。
そのため、サステナビリティ経営は、企業価値や投資家との信頼関係の向上が期待できるものとして、今後ますます重要性が高まることが予想されます。
早稲田大学法学部卒業後、金融機関での法人営業を経て、中小企業向け専門紙の編集記者として神奈川県内の企業・大学・研究機関を取材。
2013年から2020年にかけては、企業のサステナビリティレポートの企画・編集・ライティングを担当。2025年4月よりフリーランスとして独立。
企業活動と社会課題の接点に関する実務経験が豊富で、サステナビリティ分野での実践的な視点に基づく発信を強みとしている。