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非財務指標は企業の持続的成長や中長期的な企業価値を見極める指標となります。
大企業の経営層にとっては、財務データだけでは捉えきれない組織の健全性や競争優位性を可視化する手段として、その重要性が高まっています。
本記事では、非財務指標の中でもKPI(重要業績評価指標)に焦点を当て、その定義や代表的な例、さらに実際の導入プロセスまでを具体的に解説します。
五十鈴株式会社の「icサーキュラーソリューション」は、多様な手法を組み合わせて企業の環境経営を包括的に支援します。
これまでの企業経営においては、売上や利益などの財務的成果が主な評価指標とされてきました。
しかし近年、地球環境問題の深刻化や社会課題への対応、さらには労働力不足といった構造的変化を背景に、財務情報だけでは企業の持続可能性や真の価値を十分に把握できないという認識が広がっています。
ここでは、非財務指標の基本的な定義をはじめ、財務指標との違いや、ESG経営など関連する概念との関係について詳しく解説します。
まず非財務指標とは、企業の売上や利益といった金銭的な状況を反映する財務情報以外の情報のことを指します。
具体的な非財務指標として、温室効果ガスの排出量、従業員のエンゲージメントスコア、サプライチェーンの透明性、再生可能エネルギーの利用比率などが挙げられます。
非財務指標は業界や企業の特性、取り組む課題によって多種多様であり、標準化されにくいという性質を持っています。
そのため、非財務指標は単に数値化するだけでなく、どのような価値観や経営理念のもとで設定されているかといった背景もあわせて評価されることが一般的です。
以下の動画では、サステナビリティ情報開示の視点から非財務指標についてご確認いただけます。
非財務指標と財務指標の大きな違いは、評価の対象と測定の手法にあります。
非財務指標 | 財務指標 | |
---|---|---|
測定対象 | 環境・社会・組織文化など非金銭的要素 | 売上、利益、ROEなど金銭的成果 |
測定手法 | 定量+定性評価、企業ごとに独自性あり | 会計基準に基づく定量評価 |
役割 | 中長期的な企業価値やリスク耐性の可視化 | 短期的な収益性の把握 |
財務指標は売上高や営業利益、株主資本利益率(ROE)など会計基準に基づき金額で示される定量的な指標です。
これに対し、非財務指標は環境負荷や社会的インパクトといった「目に見えにくい価値」を表現するものであり、評価には企業独自の視点や解釈が反映されやすいという特徴があります。
非財務指標は財務情報と対立するものではなく、むしろそれを補完する存在です。
持続可能な成長を目指す企業にとって、非財務領域への取り組みが将来的な財務成果に結びつく認識が高まっており、財務・非財務の両面から総合的に経営を評価・管理する手法が広がっています。
ESG経営とは、企業が単に利益を追求するのではなく、環境保全や社会貢献、健全な組織運営など、持続可能性に関わる要素を積極的に経営の意思決定に組み込む考え方です。
ESG経営に関連する非財務指標の具体例として、以下のようなものが挙げられます。
E(環境) | 温室効果ガス排出量、再生可能エネルギー比率、 水資源利用効率 |
---|---|
S(社会) | 従業員の多様性、地域社会への貢献、 サプライチェーンマネジメント |
G(ガバナンス) | 取締役会の独立性、コンプライアンス体制 |
これらの情報は投資家にとって重要な判断材料であり、企業の透明性と信頼性を高める上で欠かせません。ESG経営については、以下の記事で詳しく解説しています。
非財務指標は企業の持続的な成長や企業価値向上に不可欠な要素であり、近年その重要性が飛躍的に高まっています。非財務指標と一口に言っても、その範囲は非常に幅広く、企業の業種や事業戦略、社会的関心の変化によって注目される指標も多様に変化しています。
とくに近年では、サステナビリティ経営や人的資本への投資に注目が集まる中、環境、社会、ガバナンス、ブランド・知的財産といった領域の非財務指標が重要性を増しています。
ここでは、特に注目されている非財務指標を4つのカテゴリに分けて紹介します。
環境関連の非財務指標は、気候変動への対応や自然資源の持続的な利用などの企業が環境面で果たすべき責任と行動を可視化するための重要な要素です。
特にグローバルでの脱炭素潮流を受けて、企業の環境対応力が競争優位の一因となりつつあります。
地球温暖化対策として、企業における温室効果ガス(GHG)排出量の削減は、もはや戦略上必須の課題となりつつあります。
製造業や物流業界など排出量が多い業種においては、国際的な枠組みに則り、以下のように排出源を3つのスコープに分類し、定量的に把握・管理する動きが加速しています。
スコープ1 | 自社施設や車両などからの直接排出 |
---|---|
スコープ2 | 購入した電力・熱などの間接排出 |
スコープ3 | 調達先・顧客を含むサプライチェーン全体の排出 |
これらの排出量を適切に測定・開示することは、投資家や取引先に対する透明性の向上につながると同時に、企業自身のリスク管理能力や気候戦略の整合性を示す根拠にもなります。
さらに、排出量削減の取り組みは、再生可能エネルギーの導入や製品・サービスの見直しといった企業のイノベーションを促進する起点としても重要な役割を果たします。単なるコストではなく、長期的な成長戦略の一環として位置づけるべき指標です。
【事例】大林組の脱炭素社会の取り組み
大林グループは環境方針を策定し、サプライチェーン全体で「脱炭素」「循環」「自然共生」社会の実現に向けた取り組みを実施しています。脱炭素社会の実現に向けては、温室効果ガス排出削減目標を設定し、事業を通じた燃料や電気の使用量削減や低炭素資材の活用など、すべての事業で具体的な取り組みを推進していきます。
出典:大林組「脱炭素社会」
企業が使用するエネルギーにおいて、再生可能エネルギー(Renewable Energy)の比率を高めることは、脱炭素社会への移行に向けた明確かつ実効的なアクションとして、国内外で高く評価されています。また、RE100への参加を表明し、再生可能エネルギーの積極的な利用を推進している企業も増えています。
再生可能エネルギーには以下のような手段が含まれます。
太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーの導入状況を把握し、全体のエネルギー消費に占める割合を指標化することで、企業の持続可能性への取り組みが可視化されます。
再生可能エネルギーに関する指標は、ESG格付けやサステナビリティレポートにおいても重要な位置を占めています。以下の記事では、カーボンニュートラルと企業の取り組みついて解説しています。
【事例】リコーの脱炭素社会の実現に向けた取り組み
リコーは2017年4月に日本企業として初めてRE100に加盟し、2030年度までに事業で使用する電力の50%を再生可能エネルギーに転換する目標を掲げています。
出典:リコー「脱炭素目標を見直し 気候変動対応を加速」
出典:リコー「脱炭素社会の実現に向けた取り組み」
企業の競争力の源泉は「人」にあるという認識が強まる中で、人的資本の活用状況を示す非財務指標への関心が高まっています。
企業は、自社のデジタル対応力を定量的に評価するために、以下のような非財務指標を活用しています。
デジタル人材の在籍人数・比率 | 社内におけるDX実行力の可視化 |
---|---|
専門研修・教育投資額 | スキル習得や社内リスキリング支援の度合いを定量化 |
DX関連資格の取得率 | 実務スキルと意識の両面を測定 |
これらの指標を通じて、企業は中長期的な競争力の土台となる人材戦略の成熟度を内外に発信することが可能です。
【事例】旭化成の全従業員向けDX教育の推進
旭化成は、初級からプロフェッショナルまでスキルレベルに応じた「旭化成DXオープンバッジ」制度を導入しています。スキルや役割を5段階で可視化し、アセスメントに基づく評価や人材配置の最適化を目指しています。DX人材の育成状況や新規事業創出の成果も開示しています。
出典:旭化成「デジタルトランスフォーメーション・戦略」
従業員エンゲージメントとは、従業員が自らの仕事や職場、企業のビジョンに対してどれだけ共感・熱意・貢献意識を持っているかを示す概念です。組織への「前向きな関与」の度合いを測るものであり、企業の業績や競争力と密接に結びついています。
従業員エンゲージメントは、以下のような業績指標と強い相関があるとされています。
離職率の低下 | 高エンゲージメントの職場では人材の定着率が高い |
---|---|
生産性の向上 | 業務への主体的関与が高まる |
顧客満足度の向上 | 社員の意欲がサービス品質に波及 |
従業員エンゲージメントの高い組織は変化への対応力が強く、持続的なイノベーションを生み出す土壌を持つとされています。
【事例】丸井グループの健康経営
丸井グループは、エンゲージメントサーベイの結果を好評するだけでなく、課題や改善策、経営戦略との関連性も開示し、透明性を高めています。
出典:丸井グループ「健康経営」
企業が社会との関係性をどのように築いているか、また内部統治が適切に機能しているかを評価する指標も非財務情報として重視されています。
グローバルな調達網を持つ企業にとって、サプライチェーンの透明性は経営リスクの管理に直結する重要な課題です。
ESGへの関心が高まる中で、調達・製造・流通の各段階における持続可能性の確保が、企業の信頼性や国際的な競争力に直結します。具体的な取り組みとして、以下のような情報を非財務指標として定量化・開示するケースが増えています。
これらを開示することにより、企業は責任ある調達方針の実行力を示すことができ、投資家・顧客・取引先との信頼構築に大きく寄与します。
【事例】不二精油グループ「サステナブル調達コミットメント」
不二製油グループは、2020年6月にパーム油とカカオ、2021年6月に大豆とシアカーネルのサステナブル調達に関する中長期目標とKPIを策定しました。
出典:不二精油グループ「サステナブル調達コミットメント」
地域社会との共生は、企業が持続的に発展していく上で不可欠な土台であり、社会的責任を果たすという観点からも、その姿勢が問われるようになっています。企業は地域との関係性を構築・強化することで、長期的な信頼の蓄積とリスク耐性の向上を実現できます。
地域貢献に関する非財務指標として、次のような活動の実績を定量・定性の両面で評価・開示することが求められます。
企業の社会的役割や公共性への期待が高まる中で、こうした指標の開示は評価の向上だけでなく、地域からの支持や協働の機会創出にも繋がる重要な要素となるでしょう。
【事例】東レグループ「良き企業市民としての社会貢献活動」
東レグループは、「社会貢献活動の実施件数」をKPIとして設定しています。2023年度の目標は2,500件以上、実績は2,173件(前年比+221件)。教育支援活動については「受益者数」もKPI化し、出張授業やキャリア教育の受益者数を定量的に管理しています。
出典:東レグループ「良き企業市民としての社会貢献活動」
企業ブランドは経営全体で構築・強化していくべき無形資産として位置づけられています。
ブランド価値は、製品やサービスの品質だけでなく、企業の姿勢や社会との関係性、知的資本の蓄積など、多面的な要素の統合によって形成されます。
顧客ロイヤルティは、企業の製品・サービスに対して顧客が抱く継続的な信頼と支持の度合いを示す重要な非財務指標です。ブランドや企業への共感・忠誠を可視化するため、マーケティングを超えて経営戦略の核心として位置づけられています。
以下のような指標で定量的に測定されることが一般的です。
NPS®(ネット・プロモーター・スコア) | 顧客が自社を他者に推奨する意向を数値化 |
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リピート購入率 | 継続利用の実績をもとに、ブランドへの信頼度を評価 |
ブランド好感度調査 | 主観的な印象や企業イメージの健全性を測定 |
ブランドへの信頼は危機発生時の回復力にも影響を与えるため、中長期的な企業価値を左右する要素とされています。
【事例】チューリッヒグループ「NPSをKPIに設定」
チューリッヒグループは、NPSをKPIに導入し、顧客の声をもとに改善施策を実施しています。
出典:チューリッヒグループ「お客さま本位の業務運営方針の定着を測る成果指標(KPI)の実績」
知的資本とは、企業が保有する無形資産の総称であり、特許、ブランド、独自のノウハウ、データベース、ソフトウェア資産などが含まれます。
これらは財務諸表には明示されにくい一方で、企業の競争優位性や成長力の根幹を成す重要な経営資源です。
年間特許取得件数 | 技術開発力や研究成果の活用度を可視化 |
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研究開発費(売上比) | 成長投資の積極性 |
ブランド資産評価 | 認知度や市場シェア |
ノウハウ蓄積の可視化 | 社内独自技術・業務プロセスの標準化やナレッジ共有の仕組み |
これらの知的資本の強化は、単なる内部資産の蓄積ではなく、M&Aやグローバル展開における交渉材料や企業価値評価の根拠としても活用されます。
【事例】ナブテスコの知的財産
2017年度からは、社内カンパニーとグループ会社の業績評価項目に「知財創造」を新たに加え、コア価値(知財・無形資産)を獲得・強化するための知的財産戦略活動を体系化し、社内カンパニーとグループ会社の中期経営計画の中で、その知的財産戦略活動を事業計画の一つとして策定、実行することを徹底しています。
出典:ナブテスコ「知的財産」
非財務情報の整備と発信は企業の信頼性を支えるだけでなく、経営の意思決定においても欠かせないものとなりつつあります。
ここでは、非財務指標の必要性について解説します。
非財務情報の開示はこれまで統一的なルールが存在せず、企業間の比較や透明性の確保が困難とされてきました。
こうした背景を受け、近年では非財務情報に関する国際的な開示基準の整備が急速に進展しています。代表的なものとして以下が挙げられます。
ISSB(International Sustainability Standards Board)は、企業が開示する非財務情報の国際的な統一基準を策定する目的で、2021年にIFRS財団のもとに設立された組織です。
従来、非財務情報の開示は基準がバラバラで、企業間比較が困難でしたが、ISSBはこれを解消し、財務報告と並ぶ情報開示の柱として、グローバルな信頼性確保を担っています。
ISSBが掲げる基準では、以下のような項目が主要な開示内容として位置づけられています。
これらの情報は、投資家や金融機関に対して企業の持続可能性・成長性を定量的に示す材料となり、資本調達や企業評価にも直結します。
出典:国際サステナビリティ基準審議会「ISSB基準:より良い意思決定のための、より良い情報」
ISO 30414は、企業の人的資本に関する情報開示の国際規格として策定されたもので、従業員の能力開発や健康、離職率、ダイバーシティといった幅広い領域をカバーしています。
企業が人的資本をどのように測定し、経営戦略と連動させているかを第三者に伝えるための枠組みとして機能しています。
ISO 30414で推奨される代表的な評価項目は以下の通りです。
これらの情報開示を通じて、企業は組織の健全性・人材戦略の透明性を内外に示すことが可能になります。
とりわけ、人的資本がイノベーションや競争優位性の中核となる現代において、ISO 30414の活用は、人的資産経営を信頼ある形で示す手段として注目を集めています。
出典:野村総合研究所「ISO30414(人的資本に関する情報開示のガイドライン)」
CSRD(Corporate Sustainability Reporting Directive)は、EUが導入を進めている企業向けの非財務情報開示義務に関する新たな法令で、既存のNFRD(非財務情報開示指令)を大幅に拡充する形で2024年より段階的に適用されています。
この制度は、EU域内の上場企業や大企業に対し、環境・社会・人権・ガバナンスに関する詳細な情報を、比較可能かつ検証可能な形式で開示することを求めています。
CSRDで開示が求められる主な分野は以下の通りです。
環境(E) | 温室効果ガス排出量、エネルギー使用、気候変動対応など |
---|---|
社会(S) | 労働環境、ジェンダー平等、人権への配慮 |
ガバナンス(G) | 取締役会の構成、倫理・腐敗防止体制の有無 |
デューデリジェンス | サプライチェーン全体における責任ある行動の実行状況 |
なお、EU企業との取引を行う日本企業も、サプライチェーンの一部として間接的な対応を求められる可能性があり、今後の事業継続や欧州展開を視野に入れた準備が急務です。
出典:Pwc「CSRD(Corporate Sustainability Reporting Directive:企業サステナビリティ報告指令)とは」
非財務指標の整備が急がれる背景には、ESG投資の急速な拡大があります。
ESG投資とは、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の要素を考慮した投資のことで、短期的な財務リターンのみならず、企業の持続可能性やリスクマネジメント能力も評価対象とします。
ESGを重視する機関投資家が増えたことで、企業は非財務情報の質と開示のタイミング、整合性などに対して厳格な姿勢を求められるようになりました。
結果として、非財務指標は単なる報告義務を超え、企業の持続可能な成長を支える経営戦略の一環として、多くの企業が本格的に取り組むテーマとなっています。
自然言語処理や画像認識といったAIの活用により、定量的かつ客観的に非財務情報の収集・分析・活用することが可能になってきました。
特に、以下のような分野でAIは大きな役割を果たしています。
自然言語処理(NLP) | ESGレポートや統合報告書などのテキストの解析 |
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画像認識・映像分析 | 工場や店舗の安全管理、労働環境の視覚的監査、CSR活動の実地記録など |
スコアリングアルゴリズム | 非財務データをもとにESGスコアや人的資本スコアを自動生成 |
AIツールは、非財務指標の収集・解析・活用方法を根本から変革し、企業にとって戦略的な意思決定を支える重要なインフラとなっています。
企業が持続可能な成長を実現するためには、非財務領域における価値の創出を明確にし、実行に移すための戦略的アプローチが不可欠です。
非財務価値の向上は、単に社会貢献活動を増やすことではなく、企業の核となる事業戦略に非財務の視点を組み込み、新たな価値を創造していくプロセスです。ここでは、非財務価値の向上を目指す企業が取り組むべき4つの基本的なステップについて解説します。
最初のステップは、自社のビジネスモデルや中長期戦略に照らして、どの非財務領域が経営にとって重要であるかを明確にすることです。
たとえば、製造業であれば温室効果ガスの削減や資源循環が重点的に扱うべきテーマとなる場合があります。
非財務領域を特定する際に考慮すべきポイントは以下の通りです。
外部ステークホルダーの期待 | 投資家、顧客、従業員、地域社会などの関心・要望を把握 |
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社会的要請との整合性 | SDGs、ESG課題、規制トレンドなどとの関連性 |
企業のパーパス(存在意義)や理念との一致 | 企業の価値観に即した課題選定 |
将来の競争優位性に資するか | 非財務投資が中長期的な成果にどう繋がるかを検討 |
投資家、従業員、顧客、地域社会など、それぞれの関心や価値観を丁寧に把握した上で、自社がどの課題にどう応えるかを判断します。
重点領域が定まったあとは、それぞれのテーマに応じた具体的なKPIを設定することが求められます。このとき、指標があいまいであったり、成果との因果関係が不明確であったりすると、実行の評価が困難になります。
KPIの設定では数値化できる指標だけでなく、定性的な評価項目を組み合わせることも検討されます。以下の観点をふまえて、指標を精緻に設定することが求められます。
観点 | 具体例 |
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定量指標と定性指標のバランス | 女性管理職比率(定量)+職場文化に関する従業員アンケート(定性) |
達成可能かつストレッチ性のある目標を設定 | CO₂排出削減で科学的根拠に基づいた目標として「2030年までに2013年比50%削減」など |
継続的にモニタリング・見直しが可能な構造 | 従業員エンゲージメントでは、「年2回のサーベイ結果に基づき、施策を四半期ごとに見直し、年度末に再設定」といった柔軟なPDCA体制を整備 |
このようにKPIを設計することで、非財務領域での価値創出プロセス自体が明確化され、ステークホルダーとの信頼形成にもつながる経営戦略の要素として機能します。
以下の動画では、KPIそのものに関してわかりやすい解説をご確認いただけます。
KPIを設定したあとは、定期的な進捗管理と成果の検証を通じて、取り組みの実効性を担保する必要があります。
なぜ数値が変化したのか、どの要因が影響を与えたのかを分析することで、改善のサイクルを形成することが可能になります。
効果的なモニタリング・検証のポイントは以下の通りです。
変化の背景を分析 | 施策の有効性や組織内外の影響を特定 |
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改善策を継続的な見直し | 進捗・課題・改善策を評価会議で明文化し、次期に反映 |
中長期トレンドを重視した分析 | 年単位での変化を把握し、戦略との整合性を保つ |
これにより、KPIは単なる管理指標ではなく、経営改善とステークホルダー信頼の要として機能します。
非財務KPIによる評価と改善のプロセスは、最終的に企業のビジョンやパーパスと連動していくことが理想です。
単なる数値管理ではなく、企業として「なぜこの課題に取り組むのか」「どのような社会的価値を創出したいのか」といった本質的な問いへの回答を、非財務の文脈で明示することが、企業ブランドの構築や信頼性の向上につながります。
一貫したメッセージやストーリーを通じて、企業の方向性や価値観を外部に伝えることで、共感や支持を得る機会が広がります。
また、ビジョンやパーパスに基づく非財務戦略は、従業員のエンゲージメント向上にも寄与します。
組織全体が共通の目的に向かって行動する環境をつくることで、企業内部にもプラスの循環が生まれ、より深いレベルでの価値創造が実現されていきます。
【事例】味の素「マテリアリティ」
味の素は、マテリアリティから機会・リスクを抽出し、重要度・優先度を明確にして、事業活動を展開しています。経営や従業員の思いや考え、社外のステークホルダーからの様々な期待等が反映されるプロセスで策定しており、事業戦略に密接に関わっています。また、志(パーパス)、そして現場での取り組みとも深くつながっています。「財務に関わるリスクと機会」と「味の素グループにとっての重要な事項(マテリアリティ)に関わるリスクと機会」を分けて開示していましたが、今年度から双方を統合し、当社グループにとっての事業上のリスクと機会として開示します。
出典:味の素「マテリアリティ」
非財務指標の導入と活用は、企業の中長期的な競争力を高める上で欠かせない取り組みです。非財務指標の導入は、企業文化の変革や組織全体の意識改革を伴う取り組みです。成功のためには、いくつかの重要なポイントを押さえる必要があります。
ここでは、非財務価値の向上を実現させるためのポイントを紹介します。
非財務KPIの導入が進む一方で、設定した指標が現場の行動や経営判断と結びつかず、単なる報告のための数字になってしまうケースも少なくありません。これはいわゆる「KPIの形骸化」であり、取り組みが形だけになってしまう典型的な兆候です。
多くの企業では、導入初期こそ意欲的にKPIを設計するものの、運用を重ねるうちに以下のような課題が生じやすくなります。
このような形骸化を防ぐには、KPIを経営戦略と結びつけた価値創出のための手段として位置づけることが重要です。
非財務指標の本来の役割は、企業の財務的な価値創出の基盤として機能することにあります。たとえば、次のような因果関係が具体的に認識されています。
従業員エンゲージメントの向上 | 生産性の向上、離職率の低下、人件費最適化 |
---|---|
温室効果ガスの削減 | エネルギーコストの削減、脱炭素関連の規制リスク回避 |
ブランドロイヤルティの向上 | 顧客の継続率アップ、マーケティング費用の削減 |
このような因果関係を明確にし、非財務指標と財務成果の接点を設計することが求められます。
企業が財務指標と非財務指標のつながりを意識的に構築することで、単なる社会的配慮や環境問題への対応の枠を超えて、戦略的な経営資源として非財務領域を活用することが可能になります。
【事例】三井化学「非財務KPIと財務目標の連動」
三井化学は、VISION 2030に基づき、マテリアリティに紐づく非財務KPIと目標を設定しています。KPIは担当役員・部門長を明確にし、年度予算や目標に落とし込み管理し、KPIの進捗と財務目標達成の関連性をESG推進委員会や全社戦略会議でレビューすることとしています。
出典:三井化学「マテリアリティ・非財務指標」
今後の企業経営では、非財務と財務の統合的なマネジメントがスタンダードとなり、企業の持つ多様な資本の運用力そのものが競争力となっていくでしょう。
非財務指標を、単なる情報開示の枠を超え経営の中核として活用することで、企業はより信頼される存在へと進化していきます。
早稲田大学法学部卒業後、金融機関での法人営業を経て、中小企業向け専門紙の編集記者として神奈川県内の企業・大学・研究機関を取材。
2013年から2020年にかけては、企業のサステナビリティレポートの企画・編集・ライティングを担当。2025年4月よりフリーランスとして独立。
企業活動と社会課題の接点に関する実務経験が豊富で、サステナビリティ分野での実践的な視点に基づく発信を強みとしている。