グリーンフレーションは、地球規模の環境問題を起点とするインフレーションです。広い人々への影響が懸念されており、企業によっては循環型ビジネスモデルの採用などでグリーンフレーションへの対策に講じている場合があります。
本記事では、グリーンフレーションの意味や仕組み、企業における対策事例などについて解説します。
1.グリーンフレーションの定義と仕組み

グリーンフレーションは「環境にやさしい」という意味を持つ「グリーン」と、モノやサービスの価格が上昇傾向になることを指す「インフレーション」を掛け合わせた造語です。
この影響は一部の国や業界にとどまらず、世界中の企業や消費者に広く及ぶものであり、地球規模の環境問題と経済構造の変化が深く関わっていることから、今後の重要課題として国際的にも注目されています。
ここでは、グリーンフレーションの定義とその仕組みについて解説します。
(1)グリーンフレーションの定義を簡単に解説
この概念は、2021年頃から金融市場や経済分野で注目され始めた用語であり、企業経営において無視できないリスク要因として認識されています。
たとえば、カーボンプライシングや再生可能エネルギー設備投資の負担が企業コストに転嫁され、製品価格やサービス料金の上昇を招くケースが多く見られます。
(2)グリーンフレーションの仕組み
広義のインフレーションの一種として位置づけられるグリーンフレーションですが、その特徴は、環境政策や脱炭素化の取り組みによって引き起こされる物価上昇に特化している点です。以下の動画では、通常のインフレーションとの違いをわかりやすくご確認いただけます。
これは、市場の需給バランスとは異なる要因によるインフレであり、特に政策主導型のコスト増加に起因するものとして注目されています。
以下のような過程を経て、グリーンフレーションが引き起こされます。

①環境規制と脱炭素政策が進む
まず、環境規制と脱炭素政策が進むことで、世界中で化石燃料から再生可能エネルギーへの転換が加速します。
日本でもエネルギー基本計画や省エネ法をはじめとする政策により、石油や石炭などの化石燃料の使用抑制が強化されています。
この傾向は日本に限らず、欧州連合(EU)やアメリカ、中国など多くの国がカーボンニュートラルの実現を掲げ、規制強化を進めている点も共通しています。
循環型社会の構築を目指す取り組みも進展しており、リサイクル促進や廃棄物削減といった政策が企業活動に影響を与え始めています。カーボンニュートラルと循環型社会の構築については、以下の記事で解説しています。

②コスト増加の波及
環境対応型エネルギーへの移行には多額の設備投資が必要です。たとえば以下のように、再生可能エネルギー設備は従来の火力発電と比べて多くの資源を必要とします。
風力発電 | 火力発電の6〜14倍の鉄を使用 |
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太陽光発電 | 火力発電の11〜40倍の銅を使用 |
さらに、グリーン技術で多用されるリチウム、ニッケル、レアアースなどの金属資源は、需要の急増と供給制約によって価格が高騰しています。
これにより、企業の設備投資コスト、原材料コスト、物流コストが全体的に増大し、製品価格やサービス料金の上昇を引き起こす大きな要因となります。以下は2022年時点のニュースであるものの、すでに資源高騰の影響を受けていることがわかります。
③消費者物価への影響
企業側のコスト増加は、最終的に消費者価格へ転嫁されます。特に以下の分野で影響が顕著です。
エネルギー価格の高騰 | 電気代やガス代の高騰により、家庭や企業の光熱費負担が増加 |
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輸送コストの上昇 | 燃料費の上昇が物流コストに直結し、商品価格に波及 |
このような価格転嫁が進むことで、特に低所得層や中小企業が経済的に厳しい立場に置かれる傾向が強まっています。結果として、経済格差の拡大や消費の冷え込みといった社会的課題にもつながりかねません。
(3)グリーンフレーションと関連する用語
グリーンフレーションには、類似する言葉や関連する概念がいくつか存在します。以下では、グリーンフレーションを理解する上で知っておきたい主要な関連用語を紹介します。
グリーン経済 | 環境負荷を最小限に抑えながら、持続可能な成長を実現する経済モデル |
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GX(グリーントランスフォーメーション) | 化石燃料から再生可能エネルギーへの転換を図り、環境問題の解決と経済成長を両立させる取り組み |
脱炭素 | 温室効果ガスの排出を減らし、カーボンニュートラルを目指す取り組み |
インフレーション | モノやサービスの価格が持続的に上昇する現象 |
デフレーション | 物価が持続的に下落し、経済活動が停滞する現象 |
従来の経済成長が環境破壊を伴うのに対し、グリーン経済では再生可能エネルギーの導入や循環型社会の実現を通じて、経済成長と環境保護を両立させることを目指します。
さらに、グリーン経済の推進に伴い、ESG投資が増加し、環境配慮型ビジネスが評価される傾向が強まっています。
一方で、環境対応投資や技術開発に多額のコストがかかるため、その負担が企業コストを押し上げ、結果としてグリーンフレーションが加速するリスクが懸念されています。
環境への配慮が企業競争力の源泉となる反面、グリーンフレーションが企業の事業運営やコスト管理に大きく影響を与える可能性があるため、慎重な戦略が求められます。
(4)グリーンフレーションで懸念されるリスク
その背景には、脱炭素社会への移行が避けられない一方で、政策主導によるコスト上昇圧力が持続するという構造的な課題が存在しています。さらにグリーンフレーションが長期化すると、景気後退と物価上昇が同時進行するスタグフレーションに陥るリスクが高まります。
以下のニュース動画では、2025年3月時点の経済見通しに関する内容をご確認いただけます。
グリーンフレーションによるスタグフレーションとは、脱炭素政策が進展するほどエネルギー価格や生産コストが上昇し、それらのコストが最終的に消費者物価へ転嫁されることで、経済成長の鈍化や個人消費の冷え込みが引き起こされる現象です。
企業は利益圧迫による投資の抑制を迫られ、さらには雇用縮小や所得減少が連鎖的に起こることで、長期的な経済停滞のリスクも現実味を帯びてきます。
このような悪循環は、生活コストの上昇と実質所得の低下を招き、社会的格差の拡大や景気回復の遅れといった社会経済全体への広範な影響をもたらす恐れがあります。
2.グリーンフレーションが注目される背景

グリーンフレーションが注目される理由は、脱炭素政策の進展が企業経営に深刻なコスト負担をもたらし、経済成長との両立が困難になる可能性があるためです。
ここでは、グリーンフレーションが注目される背景について解説します。
(1)カーボンプライシングによる生産コストの上昇
カーボンプライシングの目的は、温室効果ガス排出の抑制と環境負荷の低減にあるものの、その結果として企業には追加コストの発生が避けられず、特にエネルギー多消費型の産業で影響が大きくなっています。
たとえば、製鉄業や化学工業では、製造プロセスにおいて大量のエネルギーを必要とするため、CO₂排出量も多く、炭素コストの増加が直接的な利益圧迫要因となっています。
これにより、企業は製品価格の引き上げを余儀なくされる状況にあり、こうした価格転嫁が消費者物価の上昇につながることで、グリーンフレーションの一因となっています。
(2)資源価格の高騰
グリーンフレーションの背景には、再生可能エネルギーや電気自動車(EV)の普及によって、特定資源の需要が急増しているという現状があります。以下は、高騰している資源の代表的な例です。
主な使用分野 | 役割 | |
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ニッケル、リチウム | EVバッテリー(リチウムイオン電池) | 電池のエネルギー密度向上と軽量化 |
銅 | 再生可能エネルギーの送配電インフラ(ケーブル・コイルなど) | 電力の効率的な送電に貢献 |
コバルト | 高性能バッテリー(EV・モバイル機器) | バッテリーの安全性・耐久性・寿命の向上 |
これらの資源は、グリーン技術の成長とともに中長期的な需要増加が見込まれており、価格の高騰が避けられない状況にあります。
資源価格の上昇は、再エネ導入コストやEV生産コストにも直接影響を与えます。
(3)景気停滞とスタグフレーションへの懸念

スタグフレーションは、脱炭素政策や環境規制によるコストプッシュ型のインフレであるため、景気の動向にかかわらず進行する可能性があります。その結果、企業は以下のような判断を迫られる可能性があります。
- 人材への投資の抑制
- 雇用の拡大の停滞
- 利益確保のための価格転嫁
これにより、経済全体の成長スピードが鈍化し、雇用不安や実質所得の伸び悩みといった現象が表面化する可能性があります。
企業にとっては、経済の変調を先読みしつつ、持続可能な取り組みを実践するなどの経営判断がより重要になる局面です。
3.持続可能な経営へ向けた企業の取り組み事例
グリーンフレーションによるコスト上昇や規制強化といった厳しい経営環境の中でも、多くの企業が持続可能な成長を目指し、環境対応と経済合理性を両立させる取り組みを進めています。
こうした取り組みは単なる環境対策にとどまらず、中長期的な競争力の確保、ブランド価値の向上、ESG投資の呼び込みなどにもつながる重要な経営戦略と位置づけられています。
ここでは、グリーンフレーション下における実践的な対応策として、各企業がどのようにイノベーションを進め、脱炭素と収益性のバランスをとっているのか、その具体的な事例を紹介します。
(1)脱炭素社会へ向けた目標を設定

KDDIグループは、2030年度までに自社のCO₂排出量実質ゼロ、そして2050年までにKDDIグループ全体での排出量実質ゼロを目指す長期目標を掲げ、通信事業・電力サービス・エネルギー供給・地域社会との連携といった多角的な領域で脱炭素の取り組みを加速させています。
主な取り組み内容は以下のとおりです。
通信インフラの省エネ化 | データセンターの省エネ設計や、基地局の電力使用効率の向上に取り組み、通信事業におけるエネルギー消費の最適化を推進 |
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電力サービスauでんきなどの提供 | 2021年からは、エネ比率実質100%、CO₂排出量実質ゼロの電力を提供する「ecoプラン」も展開し、環境貢献型の選択肢を個人や法人に提供 |
バーチャルパワープラント(VPP)構築への参画 | 分散型エネルギー資源(太陽光・蓄電池など)を効率的に管理・活用するVPP構築実証事業に参画 |
KDDIグループの取り組みは、自社のカーボンニュートラル化にとどまらず、社会全体への再生可能エネルギー普及、地域の脱炭素支援、そして消費者との共創へと広がりを見せています。
通信インフラ企業としての特性を活かしつつ、エネルギー事業とのシナジーを形成し、グリーンフレーションが進む中でも持続性を追求する経営モデルを確立しています。
(2)サーキュラー&クライメートポジティブ

イケア・ジャパンは、2030年までにサーキュラー&クライメートポジティブを実現することを掲げ、再生可能エネルギーの導入や資源循環型のビジネスモデル構築を推進しています。
このビジョンは、気候変動対策と経済成長の両立を目指す、グリーンフレーションに対する以下のような先進的な取り組みが注目されています。
再生可能エネルギーの導入(電力使用) | 2018年より全国の大型店舗で100%再生可能電力を使用 |
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持続可能な原材料の調達 | 綿・木材などの自然素材を、森林認証などに基づいて責任ある方法で調達 |
ゼロエミッション配送の推進 | 2028年までに90%の配送をゼロエミッション化(EVなど非化石燃料車両) |
上記の取り組みは、単に自社の排出量を減らすにとどまらず、社会全体の持続可能性を高める影響力ある戦略です。
消費者にも環境配慮型の商品・サービスの選択肢を提供し、ライフスタイルの変革を促進し、配送・電力・素材という広範な領域で脱炭素を実現するアプローチは、業界横断的に注目されています。
他企業におけるサーキュラーエコノミーの取り組み事例は、以下の記事で詳しく解説しています。

(3)リサイクル配慮設計の自動車

スバルでは、環境負荷の最小化とコスト管理の両立を図ることで、グリーンフレーション時代に向けた以下のような持続可能なビジネスモデルの構築を進めています。
自動車製造におけるリサイクル設計 | ・従来の樹脂部品を、再生樹脂やバイオマスプラスチックに切り替える技術を開発中 ・鉄、アルミニウム、プラスチックといった主要素材の再利用促進 |
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使用済部品・資源の回収と再活用 | ・使用済バンパー、鉛バッテリー、廃油、タイヤなどを全国の販売店で回収・再利用 ・リサイクル処理業者と連携し、7,000枚以上のガラスを再資源化 |
生産工程からのUpcycle(アップサイクル)推進 | ・残布や落ち綿を使ったエプロン(タキヒヨー株式会社と協業) ・エアバッグ端材を活用したマルシェバッグ(豊田合成) ・廃漁網を活用したキーストラップ(キャンバス社と連携) |
サステナブル素材の開発 | ・ジュース製造後の果物残渣や木粉などを樹脂に混合し、自然素材の新素材化を研究中 ・航空機部品製造時の廃棄物から高機能な再生カーボン素材を開発(レーシングカー「SUBARU BRZ」に採用済) |
スバルは、「つくる」「つかう」「すてる」すべての工程で資源効率化を図ることで、多方面のメリットを創出しています。
こうした取り組みは、グリーンフレーションにおける原材料価格の高騰リスクを緩和しながら、競争力と持続可能性の両立を可能にする実践例として注目されています。
4.グリーンフレーション対策のステップ

ここでは、グリーンフレーションの影響を最小限に抑え、持続可能な成長を実現するための具体的な対策ステップを解説します。
(1)循環型ビジネスモデルと3Rの導入
資源価格の高騰や供給不安が続く中で、従来の「直線型経済」(大量生産→大量消費→廃棄)から脱却し、資源の使用を最小限に抑え、再利用・再資源化を前提とした循環型ビジネスモデルへの転換が求められています。
使用済み製品の回収や再使用を進めることで、廃棄物の発生を抑えながら環境負荷を軽減し、コストの最適化も図ることができます。
さらに企業活動全体での廃棄物削減、再使用、再資源化を計画的に推進することで、環境負荷とコストの同時削減が可能になります。
グリーンフレーションに対処するには、長期的な視点で、サプライチェーン全体における資源の循環性と効率性を見直し、リデュース・リユース・リサイクルの3Rを自社内で徹底することが重要です。
(2)エネルギー効率の向上
エネルギー価格の上昇は、グリーンフレーションの主要因のひとつであり、その影響を最小限に抑えるためには、企業活動におけるエネルギー効率の向上が欠かせません。
代表的な対策として、設備の運用見直しや業務プロセス・生産工程の効率化があります。
たとえば、オフィスや工場内での照明・空調の設定を以下のように見直すことで、不要な電力消費を削減できます。
- 使用していないエリアの照明を自動でオフにするセンサーを導入する
- 空調設定の最適化(過冷・過暖の防止)
- 業務時間外におけるパソコン、複合機などの機器の電源オフの徹底
その他にも、生産ラインでの機器稼働の最適化・間引き運転やエネルギー消費の高い工程の分散化・稼働タイミングの調整を行うことで、契約電力の引き下げや電力コストの最適化につながります。
日常業務の中にあるエネルギーの無駄に着目し、継続的に改善を図る仕組みづくりを行うことが重要となります。
(3)廃棄物削減によるコストの最適化
資源価格や処理費用の上昇が続く中、廃棄物を捨てるコストから再活用による価値創出へと転換することが、企業運営において重要視されています。
これにより、廃棄コストの削減だけでなく、環境への配慮やブランド価値の向上といった副次的効果も期待できます。廃棄物削減の取り組みは、専門的な知識とノウハウを持った外部サービスの活用により、さらに効果的に進めることが可能です。
廃棄物削減に特化した企業と協力することで、グリーンフレーションに備えつつ、持続可能なビジネスモデルへの転換も実現できるでしょう。
5.まとめ
グリーンフレーションは、脱炭素社会の実現に向けた政策が進む中で無視できない経済現象となっています。
循環型ビジネスモデルの導入やエネルギー効率の向上、廃棄物の最適化といった適切な対策を講じ、環境負荷を低減しながら経済成長を持続させることが求められます。