金属くず(鉄くず)は産業廃棄物の中でも多く排出される廃棄物の一種で、適切に処理することで貴重な資源として再利用が可能です。
一方で、汚染や分別の問題により処理が困難な場合もあります。
この記事では、金属くずの基礎知識、種類、リサイクル方法、注意点について詳しく解説します。
1.金属くず(鉄くず)とは?産業廃棄物の基礎知識

(1)産業廃棄物の金属くずの定義と概要
金属くずとは、「廃棄物の処理及び清掃に関する法律(廃棄物処理法)」に基づき、産業廃棄物の一種に分類される廃棄物です。
鉄くずや非鉄金属くずなどの種類があり、適切な処理を行うことで再利用が可能です。
(2)鉄くずは金属くずに含まれる
金属くずの中で最も多く排出されるのが鉄くずです。
鉄くずは、鉄素材が使用されているあらゆる分野で発生し、金属くずの中で多くを占めています。鉄くずには、建設現場での鉄骨や鉄筋、製造現場での鉄板の端材などがあります。
鉄くずは再利用しやすい素材であり、磁性を利用して分別が簡単なため、リサイクル率が非常に高いのが特徴です。
しかし、油分や異物が付着している場合や、腐食や品質低下が著しい場合は再利用が難しくなるため、状態に応じた適切な処理が求められます。
(3)金属くず(鉄くず)が発生する場所
金属くず(鉄くず)は工場や建物解体現場などの場所で多く発生します。
それぞれの場所で発生する金属くずの種類や量は異なり、適切な処理が必要です。
①工場
工場では、鉄くずが多く発生することが一般的ですが、一部では非鉄金属(アルミニウムや銅など)のくずが発生することもあります。
金属部品の製造過程で大量の鉄くずが発生します。例として、切削加工で生じる削りくずや切れ端、プレス加工での端材などがあります。これらはリサイクル業者に引き渡され、再び資源として利用されることが多いです。
②建物解体現場
建物の解体作業では、鉄骨や鉄筋などの鉄くずが発生しますが、一部、非鉄金属も発生する場合があります。
鉄くずは建設現場で再利用される場合もあれば、リサイクル業者によって分別・処理されることもあります。解体作業では他の廃材と混合しやすいため、適切な分別が重要です。
③小売店や大型施設
小売店や大型施設では、陳列棚や什器、備品などの老朽化や入れ替えにより鉄くずが発生します。
これらの廃棄物も、適切に処理することでリサイクルが可能です。また、大型施設では空調設備や配管の更新時に金属くずが発生する場合があります。
2.産業廃棄物における金属くずの種類と分類
ここでは、産業廃棄物における金属くずの種類と分類を解説します。
(1)金属くずの種類(鉄くず、非鉄金属くず)
金属くずは、大きく鉄くずと非鉄金属くずに分類され、金属の成分や特性に基づき、適切な処理やリサイクル方法を選ぶために重要です。
鉄くずは、鉄や鋼を主成分とする廃棄物で、建築現場や工場などで大量に発生します。具体例として、鉄骨や鉄筋、鉄板の切れ端、プレス加工で出る端材があげられます。
非鉄金属くずは、鉄以外の金属を含む廃棄物で、アルミニウム、銅、ステンレスなどが代表的です。非鉄金属は、電線、配管、アルミサッシ、ステンレス製品などから発生することが一般的です。
リサイクル方法にも違いがあり、鉄くずは磁性を利用して容易に分別できるため、リサイクル率が高いのが特徴です。
(2)鉄くずを発生源で分類する方法
鉄くずは、発生源に応じていくつかの種類に分けられ、処理方法やリサイクルへの適用を判断する際に役立ちます。
・工場からの鉄くず
工場で金属部品を製造するプロセスで発生する鉄くずです。切削加工の削りくずやプレス加工の端材、製品不良の金属部品があります。
・建築現場からの鉄くず
建物の解体やリフォーム作業で発生する鉄骨や鉄筋などです。これらは大量に発生し、リサイクルされることが多いです。
・小売店や施設からの鉄くず
陳列棚や備品などが老朽化した際に廃棄される鉄くずが含まれます。量は工場や建築現場と比べると少ないです。
(3)鉄の種類で分類する方法
鉄くずは、鉄の種類に基づいて分類できます。この分類に基づいて、リサイクルや再利用の際に用途を決めます。
・炭素鋼
建築資材や自動車部品に多く使用される一般的な鉄材です。強度が高く、リサイクル後も多用途に利用されます。
・鋳鉄
鉄道車両部品やマンホールの蓋などに使用される鉄材です。溶解後のリサイクル用途が限られるため、適切な分別が重要です。
3.金属くず(鉄くず)の具体例
金属くず(鉄くず)は、さまざまな場面で発生し、建築現場、自動車、工場、工具、ドラム缶など、用途や形状に応じた処理が求められます。
ここでは、金属くず(鉄くず)の具体例を紹介します。
(1)建築系スクラップ
建築系スクラップは、建物の建築や解体作業で発生する鉄くずを指します。
具体例として、鉄骨や鉄筋、鋼板などが挙げられます。これらは建設現場で発生する廃棄物の中でも特に多く、適切に分別されることで再利用が可能です。
例えば、鉄骨は解体後にリサイクル業者で処理され、新たな鉄材として再利用されることが多いです。
また、建築現場では大量のスクラップが発生し、アルミサッシや銅配管などの非鉄くずも含まれるため、効率的な分別と回収が重要です。
(2)自動車系スクラップ
自動車系スクラップで多いのは、廃車や自動車部品の製造過程で発生する鉄くずです。
具体的には、車両のフレーム、エンジンブロック、シャーシなどが含まれ、自動車リサイクル法に基づき、自動車から回収された鉄くずは処理されます。
例えば、車両のフレームは鉄材として再利用されるほか、エンジン部品は鋳鉄やアルミ部品としてリサイクルされることが多いです。
(3)機械スクラップ
機械スクラップは、工場で使用される生産機械や工作機械が廃棄される際に発生する鉄くずです。例えば、プレス機や旋盤などの大型機械があげられます。
これらのスクラップは、重量があり構造が複雑なため、専門業者が解体・分別を行います。リサイクル後には、新しい機械部品や建材の原料として再利用されます。
(4)工具スクラップ
工具スクラップは、ドライバー、レンチ、ペンチ、切削工具などの使用済みまたは破損した工具類から発生する鉄くずです。
これらの工具が廃棄される場合、鋼材としての再利用が可能です。
特に高強度の合金鋼で作られた工具は、リサイクル後も同様の用途に使えることが多く、資源の有効活用にもつながります。
(5)ドラム缶やスチール缶
ドラム缶やスチール缶は、鉄くずの一種です。
工場や倉庫で使用されるドラム缶は、液体や粉体を運搬・保管するために使用され、使用後に廃棄されることがあります。
ドラム缶のスクラップは、比較的均質な鉄材であるため、リサイクルが容易です。
スチール缶についても、リサイクルに適した素材であり、溶解されて新たな鉄製品の原料として使用されます。
(6)鉄のダライ粉や鉄筋屑
鉄のダライ粉は、旋盤やフライス盤などの加工機械で部品を製造する際に生じる金属加工の際に発生する削りくずを指します。
一方、鉄筋屑は、建築現場で使用される鉄筋の端材や切れ端を指します。
これらは小さなサイズですが、大量の鉄材として再利用され、ダライ粉は粉状であるため、専用設備で処理されます。
4.金属くず(鉄くず)の処理方法
ここでは、金属くず(鉄くず)の一般的な処理方法を解説します。
(1)リサイクル処理(回収・再利用)
鉄くずの処理方法として最も推奨されるのがリサイクル処理です。
鉄は再利用可能な金属であり、適切な回収と処理を行うことで資源として活用することができます。
なかでも鉄は磁性を持つため、廃棄物の中から効率的に分別でき、リサイクル効率が高く、品質を損なわずに繰り返し利用可能です。
リサイクルされた鉄は建設資材や自動車部品、機械部品など、多岐にわたる用途に再利用されています。
また、鉄くずだけでなく、非鉄金属(アルミニウム、銅など)などもリサイクルされることが多く、アルミニウムは軽量かつ腐食に強いため、飲料缶や車両部品の原料として再利用されます。
銅は電気伝導性が高く、電線や電子機器に再利用されることがあります。
リサイクル処理は、環境負荷を軽減し、資源の有効活用を促進するために重要です。鉄くずを適切に回収し、リサイクル業者と連携することで、持続可能な社会の実現に貢献できます。
(2)埋め立て処理
リサイクルが困難な金属くず(鉄くず)は、リサイクルが不可能な場合に埋め立て処理が選択される場合もあります。
再利用できない主な原因には「金属くず(鉄くず)が油や化学物質に汚染されている」「金属くず(鉄くず)が他の廃棄物と混ざり分別が難しい」などがあります。
たとえば、工場で発生した油汚染鉄くずで、洗浄が困難である場合、埋め立て処理が行われます。建築現場で発生する廃棄物の中で、コンクリートやプラスチックと一体化した鉄くずも、リサイクルが難しいため埋め立て処理されます。
埋め立て処理はリサイクルが不可能な場合に限り実施されます。排出事業者は、廃棄物を適切に分別し、できる限りリサイクル可能な鉄くずを増やす工夫が求められます。
5.鉄スクラップの売却について
ここでは、鉄スクラップの売却について解説します。
(1)有価物として売却可能な場合
鉄くずは産業廃棄物ですが、鉄スクラップであれば有価物としてリサイクル業者に売却できる場合があります。
なかでも、以下の条件を満たす鉄スクラップは高い需要があります。
・状態が良好な鉄スクラップ
錆びていない、汚染されていない鉄スクラップは、高価で取引される傾向があります。
・純度が高い鉄スクラップ
他の廃棄物と混ざっていない鉄スクラップは、処理が容易なため需要が高いです。
建設現場で発生した鉄骨や鉄筋は、分別が容易でリサイクル率が高いため、高価で取引されることが多い傾向にあります。
また、ドラム缶やスチール缶など、均質な鉄材も取引対象になりやすいです。
(2)買取り不可な場合の理由
鉄スクラップであってもすべてが有価物として売却できるわけではありません。
以下のような理由で買取りが難しいケースがあります。
・汚染されている場合
油や化学物質で汚染された鉄くずは、洗浄が必要なため、処理コストが高くなり、買取りを断られることがあります。
・分別が困難な場合
他の廃棄物(コンクリート、プラスチックなど)と一体化した鉄くずは、分別が困難なため、買取できないケースがあります。
・鉄の価値が低い場合
錆びや腐食が進んでいる鉄くずは、利用が制限されるため、需要が低くなることがあります。
たとえば、建設現場で発生したコンクリートに埋め込まれた鉄筋や、工場で出た油汚染鉄くずは、通常のリサイクル工程では処理が難しく、買取り対象外となる可能性が高いです。
6.金属くず(鉄くず)処理の注意点

金属くず(鉄くず)処理の注意点を解説します。
(1)無許可業者の見極め方
金属くず(鉄くず)の処理を依頼する際、無許可業者に依頼すると、違法処理や環境汚染のリスクが高まるだけでなく、排出事業者が法的責任を問われる可能性があります。
無許可業者を見極めるためのポイントは以下の通りです。
・許可証の確認
産業廃棄物処理業には「産業廃棄物収集運搬業」と「産業廃棄物処分業」があります。
依頼内容に応じて、産業廃棄物収集運搬業の許可証、産業廃棄物処分業の許可証の確認が必要です。
・公的機関の業者リストの活用
公的機関が発行する産業廃棄物処理業者のリストも参考になります。業者の信頼性を確認できます。
・適正価格
適正価格を基準に相場とかけ離れた安価な料金を提示する業者は注意が必要です。
・契約書の内容確認
契約内容が法令に準拠しているかを確認し、不明瞭な契約を避けることが重要です。マニフェスト制度を適切に利用しているか、過去に行政違反した履歴がないかを確認しましょう。
(2)産業廃棄物処理のマニフェスト制度
産業廃棄物を適切に処理するためには、廃棄物の排出から最終処分までの流れを追跡できる「マニフェスト制度」に基づいて管理する必要があります。この制度は、廃棄物処理の透明性を高め、法令を遵守するために排出事業者に義務付けられています。
マニフェストには紙マニフェストと電子マニフェストがあり、どちらを利用しても構いません。
電子マニフェストはインターネットを利用してオンラインで管理する形式で、記入ミスや不備が発生しにくい点が特徴です。
7.まとめ
産業廃棄物の鉄くずの適切な処理によって、法令順守、コスト削減、環境保全、資源の有効活用につながります。