鉄リサイクルのプロセスは、新たに鉄鉱石から鉄を製造するエネルギー消費量と比較して大幅な削減が可能であり、CO2排出の抑制にも貢献します。
本記事では、鉄リサイクルの概要と重要性、鉄を含む廃棄物の種類、鉄リサイクルの主要プロセスなどについて解説します。
1.鉄のリサイクルにおける概要

鉄のリサイクルとは、廃棄物から鉄スクラップ(鉄くず)を回収し、再生資源として活用することです。鉄スクラップは、自動車や船舶、家電製品、飲料缶など、さまざまな鉄製品から回収できます。
鉄製品の原料は、鉱物の特性を活かした異なる素材を用います。そのため、リサイクルする際には、回収した鉄スクラップの素材に適した再生処理が必要です。
ここでは鉄リサイクルの重要性と鉄のリサイクル率について解説します。
(1)鉄のリサイクルの重要性
鉄は、地球上で最も多く使用されている金属資源の一つです。
主に建築物や車両、船舶、産業機械、家電製品、医療器具など、あらゆる分野で使用されており、高い汎用性を備える素材です。
また、日本鉄リサイクル工業会のデータによると、国内の鉄鋼蓄積量(国内に何らかの形で蓄積されている鉄の総量)は、2021年時点で約14億1,300万トン以上を保有しています。
その中でも、市中スクラップ(建築物などの解体現場や使用済み製品から採取できる鉄)は、年間約2,300〜3,000万トンが消費されています。

例えば、東京タワーの鋼材使用量は約4,000トンです。市中スクラップを東京タワーで換算すると、毎年約6,000〜7,000基前後相当の鉄を1年間で使用している計算です。
日割り計算では、毎日、東京タワー17基分相当量の市中スクラップが処理されており、すべて社会に還元されています。
素材としての汎用性や高いリサイクル率を踏まえると、鉄のリサイクルは現代の生活において重要度が高い取り組みといえます。
(2)鉄のリサイクル率

日本鉄鋼連盟の調査データによると、鉄のリサイクル率は現在ほぼ100%です。
金属の項目にはさまざまな金属が含まれていますが、鉄鋼だけを見れば97%で、鉄鋼は完全に廃棄されることが極めて少なく、高確率で何らかの形でリサイクルされます。
鉄のリサイクル率が高い理由として、主に不純物の除去が容易な点が挙げられます。
鉄は磁性を持つため、磁力による選別が可能です。
そのため、鉄の回収率は高く、ほぼ100%のリサイクル率を維持しています。
2.鉄(鋼)スクラップの取引価格


鉄(鋼)のスクラップ価格は、2000年代初め頃は1トンあたり1〜2万円ですが、その後、リーマンショックやパンデミック、中国の経済活動再開などの影響による需要の高まりによって、価格が高騰しています。
日本鉄リサイクル工業会のデータによると、2024年1月〜8月まで4万円後半から5万円代で高水準をキープしていました。その後、2024年9月以降から3万円台後半から4万円代前半にまで価格は下がっています。
価格下落の要因は、海外の鉄鋼需要の低迷により、鉄スクラップの輸出が鈍化したことや為替の円高が影響しています。
(参考元:一般社団法人 日本鉄リサイクル工業会)
3.鉄のリサイクルに関わる主要廃棄物

鉄のリサイクル源は、主に鉄スクラップを用います。鉄スクラップを大別すると、以下の2種類です。
自家発生スクラップ | 製鋼メーカーの製鋼・加工過程で発生する鉄くず |
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市中スクラップ | 建築物や建造物の解体現場、使用済み製品などから発生する鉄くず |
市中スクラップは、さらに工場発生スクラップと老廃スクラップに分類されます。
ここでは、市中に流通している「市中スクラップ」の主要廃棄物についてご紹介します。
(1) 工場発生スクラップ

製造過程で主に発生する鉄スクラップは、鉄を切断した際に発生する破片、旋盤加工時の切りくずなどが該当します。さらに、製造加工時に発生する鉄製の不良品も工場発生スクラップです。
以下に、工場発生スクラップの主な廃棄物を解説します。
①車両・船舶等
鉄は、車両(自動車、トラック、電車など)や船舶(タンカー、大型客船など)、航空機の車体や各種部品などに多く用いられています。
鉄が主に利用される車両や船舶などのパーツは、以下の通りです。
- 車体、船体、機体
- 骨組みとなるフレーム
- エンジン、駆動部品
- 電車の車輪 など
上記の鉄製品を製造加工する際に発生する鉄くずが、工場発生スクラップとなります。
②産業用機械
多くの産業用機械に鉄が使用されており、産業用機械の製造過程で発生する鉄の破片や切りくず、不良品なども工場発生スクラップに分類されます。
鉄を使用している産業用機械には、以下のようなものがあります。
- ボイラー
- 鉱山機械
- 製鉄機械
- 化学機械
- 環境装置
- 鉄製タンク
- プラスチック加工機械
- 運搬機械
- 動力伝達装置
- 風水力機械
産業用機械の製作・加工は、機種によっては細かな作業を要するため、小さな鉄スクラップが大量に発生します。
③電気機器類
電気機器類には鉄が使用されており、製造・加工過程で発生するすべての鉄くずが工場発生スクラップです。
電気機器類には、主に以下の製品があります。
- 家電製品(洗濯機、乾燥機、冷蔵庫、電気料理器具など)
- 発電機、変圧器
- キュービクル、配電盤
- 動力源に用いるモーター
さらに、電気配線の鉄心材料にも電磁鋼板や純鉄などが使われています。これらすべてが工場発生スクラップであり、製作加工時に発生する鉄くずです。
工場発生スクラップは、その他にも電車のレールや構造物の支柱・梁に用いる鉄製の建材などの製造加工時にも発生します。
(2)老廃スクラップ

老廃スクラップとは、鉄製の使用済み製品から発生する鉄スクラップです。主な老廃スクラップを以下でご紹介します。
①廃車や廃船
不動車や廃車など、使われず廃棄される車両や船舶などは老廃スクラップです。
廃車や廃船などから発生する老廃スクラップには、以下のようなものが含まれます。
- 車両の車体、船体、機体
- フレーム、各種部品類
- エンジン
- 固定金具 など

経済産業省のデータによれば、使用済み自動車の引取台数は、令和4年度で274万台にも上ります。
また、一般社団法人日本自動車工業会の調査によると、自動車に使用されている鋼板は、自動車の重量比で約40%程度と示されています。
②鉄製の建築物や構造物など
老朽化した建築物や構造物からも老廃スクラップは回収が可能で、以下のような建築物や建造物の一部から回収できます。
- 鉄骨・鉄筋コンクリート造りのビルやマンション、工場、倉庫、家屋など
- 橋梁・鋼橋
- 歩道橋
- 鉄道レール
- 公園や遊園地の遊具 など
廃車や建築物、構造物以外にも産業廃棄物や家電製品、電気部品などの老廃スクラップもあります。
4.鉄を含む廃棄物の処分方法

廃棄物の中には、鉄以外の素材も含まれるため、純粋に鉄だけを抽出するには、廃棄物の選別や特別な施設が必要です。
ここでは、鉄を含む廃棄物の処理方法について解説します。
(1)自社で鉄をリサイクルする
鉄を使った製品を製造しているメーカーの場合、自社で廃棄物を選別し、リサイクル業者に引き取ってもらう方法があります。
自社で選別すれば委託費用を抑えられ、廃棄物排出量を低減する新たな製品開発にも役立ちます。
さらに廃棄物の回収方法や効率的な選別手段を確立できれば、資源の有効利用だけでなく、業務効率化につながる場合もあります。
(2)外部委託する
鉄を含む廃棄物を自社で処理できない場合は、外部委託を検討する必要があります。以下では、外部委託の方法を紹介します。
①リサイクルセンターに持ち込む
地域の自治体が運営するリサイクルセンターに持ち込めば、鉄のリサイクルに貢献できます。リサイクルセンターでは、廃棄物を有料で引き取るケースが一般的です。
また産業廃棄物の場合、マニフェスト(産業廃棄物管理票)の作成が必要です。
リサイクルセンターへの持ち込みは、選別の手間を省ける利点があり、限られた量の鉄を含む廃棄物を処理する場合におすすめです。
②専門回収業者に依頼する
鉄を含む廃棄物が日常的に発生し、自社対応できない場合には、専門回収業者に依頼する方法もあります。
地域の廃棄物回収業者に依頼すれば、毎日・週何回など、廃棄物の回収日を決めて定期回収されることが一般的です。
なお業者に回収を依頼する場合にも、廃棄物処理法に基づくマニフェストの交付が求められます。
マニフェストは、専門回収業者が作成するので事務的負担はほとんどありませんが、作成が義務付けられている点を認識しておく必要があります。
③鉄リサイクルの企業パートナーを探す
廃棄物回収をアウトソーシングすると、費用の支払いが発生しますが、鉄リサイクルの企業パートナーを探せば、無料引取または有料で買い取ってもらえる可能性があります。
ただし、買い取りは有価物として処理する場合に限定されます。
有価物とは、自分や他社にとって価値のある廃棄物のことです。例えば、鉄くずや古紙などが該当します。
なお、アウトソーシングする場合にも到着物有価物に該当するならマニフェストが必要です。
パートナー企業によっては双方にとってメリットがあるため、目的などの側面から好相性の企業を見つけることが大切です。
5.鉄リサイクルの主要プロセス

鉄リサイクルの主要プロセスを紹介します。
(1)鉄を廃棄物の中から選別
回収した廃棄物の中から鉄を選別します。高純度の鉄を生成する場合、選別工程は特に重要です。
鉄を含む廃棄物は鉄単体の製品もあれば、非鉄やプラスチック、ゴムなどが取り付けられたままの製品もあり、さらに鉄と非鉄などを一緒に溶解すると不純物が増加します。
鉄の品質低下やスラグ(金属精錬時に発生する不純物を含む副産物)の増加、リサイクル工程の非効率などの要因になり得る場合があるため、廃棄物の鉄を高純度の再生資源として活用するには、できる限り選別時に鉄のみを取り出す仕組みを構築する必要があります。
(2)選別した鉄をスクラップにする
廃棄物の中から選別した鉄をスクラップにします。スクラップ工程は、選別した鉄を専用シュレッダーにかけて2〜10㎝程度の大きさに粉砕します。
粉砕処理後に、鉄とシュレッダーダストに分別します。
シュレッダーダストとは、シュレッダーにかけた際に発生するプラスチックやゴム、スポンジなど鉄以外の素材です。分別作業でシュレッダーダストをきれいに除去できれば、高純度の鉄を生成できます。
また、鉄工場や建築物の解体現場、大型廃船などから発生する廃棄物は、不純物の混入が比較的少ない傾向にあります。そのため、大型の鉄処理に適したギロチンシャーと言われる処理機械を使用します。
鉄の大きさや不純物の多さなどにより、シュレッダーとギロチンシャーの2機種を使い分けます。
(3)スクラップ鉄を電炉などで融解
スクラップされた鉄は、電気炉や溶鉱炉などで融解します。融解した際に、鉄より融点の低い不純物は溶けてスラグとなり、鉄より融点の高い不純物は鉄に含有します。
不純物の含有量が多いほど、純度の低い鉄となってしまうため、リサイクル時に品質を維持したい場合には不純物の混入に注意が必要です。
(4)新たな鉄素材に再生
融解した溶鋼を用いて鋳造し、新たな鋼を作ります。
その後、鋼を熱間圧延、冷却圧延工程を経てH型鋼や丸棒に成形し、最後に表面処理すれば再生鉄の完成です。
(5)再生鉄で新しい製品を製造
鉄製品は、理論上はここまで工程を繰り返すことで何度もリサイクルが可能です。そのため、鉄リサイクルは別名「Closed Loop Recycl(クローズド・ループ・リサイクル)」とも呼ばれます。
クローズド・ループ・リサイクルとは、リサイクルされた鉄が再び元の製品に使用され、品質が劣化することなく繰り返し利用される仕組みを指します。
クローズド・ループ・リサイクルは、サーキュラーエコノミーの基本的な概念でもあり、半永久的にリサイクル可能な素材として鉄は非常に優れた素材です。これにより、鉄製品のリサイクルは、環境への負担を軽減しながら持続可能な社会を支える重要な要素となります。
6.まとめ
鉄は、あらゆる分野で使用されており、リサイクル率はほぼ100%です。他の素材にはない磁性を持つため、不純物の除去が容易です。