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企業にとって、GHG排出量を正確に把握し、削減のための戦略を策定することは、持続可能な経営を実現するために欠かせません。企業がGHG(温室効果ガス)排出量の削減に取り組むことが、単に環境保護のためだけでなく、持続可能な経営を実現するために重視される要素なためです。
近年、投資家や金融機関は、企業の環境・社会・ガバナンス(ESG)への取り組みを評価項目に組み入れており、GHG排出量削減はその中でも特に重要な指標の一つです。また、サプライチェーン全体での排出量削減が求められる中、取引先企業からもGHG排出量に関する情報開示や削減努力を要求されるケースが増加しています。こうした内外からの要請に応えることは、企業が持続的に成長し、競争優位性を確立するために不可欠です。
本記事では、GHG排出量の基本的な概念から、企業が取り組むべき具体的な削減方法、そしてその取り組みが企業に与える影響について詳しく解説します。
地球温暖化の深刻化を受け、各国は温室効果ガス(GHG)排出削減に向けた取り組みを加速させています。その中心となる国際枠組みが、2015年に採択された「パリ協定」です。同協定では、すべての締約国に対し、温室効果ガス削減目標を「国が決定する貢献(NDC)」として5年ごとに提出・更新することが義務づけられました。
日本もこの国際的な枠組みに積極的に参画しており、温室効果ガスの排出量削減に向けて意欲的な目標を設定しています。具体的には、2050年までにカーボンニュートラルを実現するという目標を掲げ、これを達成するためのロードマップを策定しています。この目標達成のため、政府は企業に対し排出量削減の取り組みを強化するよう強く求めており、法規制の整備や新たな支援制度の導入を進めています。
年度 | 削減目標・方針 | 概要 |
---|---|---|
2013年度 | 基準年として設定 | 各削減目標の基準年として設定されている。 |
2030年度 | GHGを2013年度比で46%削減(最大50%目標も) | パリ協定に基づくNDCとして国連に提出済み。実現に向けた法制度整備や産業界への要請が進行中。 |
2035年度 | GHGを2013年度比で60%削減 | 2025年2月に閣議決定。1.5℃目標に整合的で野心的なNDCとして、国連気候変動枠組条約事務局に提出。 |
2040年度 | GHGを2013年度比で73%削減 | 上記と同様に、2035年度とセットでNDCとして提出。長期的視点での政策誘導や技術革新が求められる。 |
2050年 | カーボンニュートラル(GHG排出実質ゼロ) | 菅首相(当時)が2020年に表明。政府の成長戦略の柱として位置づけられ、「長期戦略」として国連に提出。産業構造・エネルギー構成の抜本的改革が前提。 |
これにより、政府主導での規制強化や支援制度の整備が進む一方で、民間企業にもGHG排出削減への対応が強く求められるようになりました。
そのため今後、GHG削減の取組を怠る企業は、資金調達や事業継続において大きなリスクを抱える可能性があります。GHG排出量の削減は、企業にとって国際競争力の維持・強化に直結する重要戦略となるでしょう。
出典:日本の排出削減目標|外務省
出典:パリ協定の概要(仮訳)|環境省
温室効果ガス(GHG: Greenhouse Gas)は、大気中に存在し、地表からの熱を吸収・再放射することで地球温暖化を引き起こすガスの総称です。GHG排出量の削減に取り組むにあたって、GHGの基本的な仕組みと現状、そして企業が削減に取り組むべき理由について順に解説します。
GHG(Greenhouse Gas、温室効果ガス)は、地表から放出された赤外線(熱)を吸収し、大気中に再放射することで地球の気温上昇を引き起こすガスの総称です。自然にも存在しますが、人為的活動によって排出量が急増しており、気候変動の主因とされています。代表的なGHGには以下のようなものがあります。
ガス名 | 主な排出源 |
---|---|
二酸化炭素(CO₂) | 化石燃料の燃焼、森林伐採 |
メタン(CH₄) | 家畜の消化、稲作、埋立ごみなど |
一酸化二窒素(N₂O) | 窒素肥料、産業活動、下水処理など |
フロン類(HFC・PFC等) | 冷媒、エアコン、半導体製造など(種類によって異なる) |
これらの温室効果ガスはそれぞれ温室効果の強度(地球温暖化係数:GWP)や大気中の寿命が大きく異なり、排出削減に向けたアプローチもガスごとに最適化する必要があります。企業にとっては、自社の活動に関わるGHGの種類と排出源を正確に把握することが、削減対策の第一歩となります。
全国地球温暖化防止活動推進センターによると、2020年度における日本のGHG総排出量は約11億4,900万トン(CO₂換算)で、そのうち約91.6%を二酸化炭素(CO₂)が占めています。CO₂の主な排出源は、発電・工場・交通といったエネルギー起源の活動です。メタン(CH₄)は畜産や廃棄物処理から、一酸化二窒素(N₂O)は農業や化学工業などから、またフロン類は冷媒や工業用途から排出されます。
特に二酸化炭素排出に注目すると、以下のように産業部門が最も大きな割合を占めており、次いで運輸、業務その他、家庭部門が続いています。
部門 | 主な排出源 | 傾向 |
---|---|---|
産業部門 | 製造業、鉄鋼、化学工場など | 最大の排出源。近年は減少傾向。 |
運輸部門 | 自動車、トラック、航空など | やや減少傾向。 |
業務その他部門 | 商業施設、オフィス、サービス業など | 緩やかに減少。 |
家庭部門 | 暖房、照明、家電などのエネルギー使用 | 近年はやや増加傾向。 |
エネルギー転換部門 | 発電所など | 比較的安定的に推移。 |
こうした状況を背景に、日本政府は2030年度に2013年度比でGHGを46%削減、2050年にはカーボンニュートラルを達成するという目標を掲げ、各産業部門に削減努力を求めています。とりわけ、排出量の大きい部門を中心に、エネルギー効率の改善・再エネ導入・製造プロセスの見直しが喫緊の課題とされており、企業の対応が社会的・経済的に強く問われています。
出典:日本の排出削減目標|外務省
参考:温室効果ガスインベントリオフィス|国立環境研究所
【事例】脱炭素の取り組み|日本製鉄
日本企業の中でGHG排出量が最も多い日本製鉄は、「日本製鉄カーボンニュートラルビジョン2050」を掲げ、削減を最重要課題としています。
主な取り組みは、高炉での水素還元技術やCO2分離回収技術など革新的な製鉄プロセス開発で、2030年までに製鉄プロセス由来のCO2排出30%以上削減を目指します。
また、非効率石炭火力の廃止やグリーン電力購入による電力構造の低炭素化も推進。
高炉セメント製造や資源循環など多角的なアプローチで、同社は世界の鉄鋼業の脱炭素化を牽引する立場を目指しています。
参考:「カーボンニュートラルビジョン2050」の推進|日本製鉄
温室効果ガス(GHG)排出量の削減は、もはや企業にとって選択肢ではなく義務といえる状況にあります。
単なるCSR(企業の社会的責任)ではなく、事業存続・競争優位性の確保に直結する経営課題として、今すぐ取り組むべき重要なテーマです。主な背景は以下の通りです。
背景 | 概要 |
---|---|
法規制の強化 | カーボンプライシング(炭素税・排出量取引制度)の導入や、GHG排出量の開示義務化(例:TCFD対応、ISSB基準)などが国内外で加速中。 |
サプライチェーン対応 | 大手企業や多国籍企業がScope3排出量の把握と削減を求める中、取引先企業にも開示と削減努力が求められている。 |
ESG・金融リスク | GHG排出への無策は、ESG評価の低下、株主からの圧力、融資条件の悪化を招く可能性がある(特にメガバンクは脱炭素方針を明言)。 |
消費者・顧客の選別意識 | 環境対応への関心は企業イメージに直結。BtoC・BtoB問わず、持続可能性への姿勢が購買判断・取引選定に影響を与えている。 |
海外市場アクセスの制限リスク | EUではカーボン・ボーダー調整措置(CBAM)導入が進み、排出の多い製品には実質的な関税が課せられる。対応しなければ市場参入が難しくなる。 |
これらの要因により、GHG削減に消極的な企業は資金調達・営業活動・人材確保などあらゆる面で不利な立場に追い込まれかねません。逆にいえば、脱炭素への前向きな対応は企業価値を高め、信頼を獲得する絶好の機会でもあります。
参考:EU炭素国境調整メカニズム(CBAM)の解説(基礎編)(2024年2月)|日本貿易振興機構(JETRO)
参考:CBAM報告対応が在欧日系企業の負担に|日本貿易振興機構(JETRO)
【事例】温室効果ガス削減への取り組み|日清食品
日清食品ホールディングスは、カーボンプライシング(CO₂コスト)の社内制度「インターナルカーボンプライシング(ICP)」を導入しています。
新たな設備投資の意思決定時にCO₂排出とコストを必ず可視化し、環境負荷低減設備の導入を優先しています。
気候関連財務情報開示(TCFD)や国際的な開示基準(ISSB)にも積極対応し、情報発信を強化。脱炭素社会の実現に向けて、再生可能エネルギー活用や省エネ技術の推進も進行中。CO₂排出削減の進捗や取り組み内容を、ESGレポートなどで透明性高く公開。
グローバルな課題対応として、サプライチェーン全体での温暖化対策の強化も進めています。
出典:気候変動|日清食品
出典:CO₂排出量の削減目標引き上げおよび「インターナルカーボンプライシング制度」導入について|日清食品
【事例】カーボンニュートラルに向けた取り組み|JFEスチール
JFEスチールは、鉄鋼業が排出量が多い産業であることから、カーボンニュートラルへの挑戦を経営の最重要課題と位置づけ、革新的な製造プロセス(例:水素還元製鉄)の開発を進めています。特に、欧州で導入が進むカーボン・ボーダー調整メカニズム(CBAM)のような国際的な規制に対応するため、技術開発によるGHG排出量削減は、将来的な海外市場での競争力維持に不可欠と捉えています。
GHG排出量削減に取り組むうえで、最初に行うべきは自社の排出量の正確な把握=「見える化」です。現状を数値で把握しないことには、削減目標の妥当性も、対策の優先順位も判断できません。ここからは、企業におけるGHG排出量算定の進め方を解説します。
GHG排出量を正確に把握するには、排出源を体系的に分類し、網羅的に算定する必要があります。その際に国際的に最も広く採用されている基準が、「GHGプロトコル(Greenhouse Gas Protocol)」です。
GHGプロトコルでは、企業活動に関連するGHG排出を3つのスコープ(範囲)に分類し、それぞれの責任と影響の大きさに応じて算定・開示を求めています。
スコープ分類 | 内容 | 主な例 | 排出責任の所在 |
---|---|---|---|
スコープ1 | 自社による直接排出 | ボイラー・社用車の燃料使用、製造工程からの排出など | 自社 |
スコープ2 | 購入した電力・熱などの使用に伴う間接排出 | オフィスや工場で使用する電力・蒸気・冷暖房 | 自社(ただし排出源は外部) |
スコープ3 | バリューチェーン全体でのその他間接排出 | 原材料の調達、製品輸送、出張、通勤、廃棄、投資など | 関連する他社も含む |
とくにスコープ3は、企業のGHG排出の7〜8割を占めることもあるとされ、今や投資家や取引先からの開示要請の中心になりつつあります。これらを含めた全体像を把握することで、削減すべきポイントの発見、脱炭素経営の計画立案、外部への説明責任の遂行が可能になります。
以下の記事では、スコープ3について詳しく解説しています。
参考:温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度|環境省
参考:排出量算定に関するガイドライン|グリーン・バリューチェーンプラットフォーム(環境省)
【事例】気候変動対策|富士フイルムホールディングス
富士フイルムは、気候変動への取り組みの中で、スコープ1, 2, 3それぞれの排出量と削減目標を公開しています。特に、スコープ3については、カテゴリー別の排出量と削減に向けたアプローチについて説明しており、企業がどのように排出源を特定し、目標設定に繋げているかの参考になります。
GHGプロトコルは、世界資源研究所(WRI)と持続可能な開発のための世界経済人会議(WBCSD)が共同で策定した国際ガイドラインであり、企業の排出量をスコープ1・2・3に分類し、体系的かつ網羅的な算定を可能にします。
特に注目すべきは、GHGプロトコルに基づいて算定された排出量が、他の国際的な報告枠組(例:TCFD、CDP、ISSBなど)とも整合している点です。加えて、その基準や排出係数の多くはIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の提案に準拠しており、科学的にも高い信頼性を有しています。
また、以下のような特徴により、実務面でもベストプラクティスとして広く受け入れられています。
特徴 | 内容 |
---|---|
国際整合性 | 他の排出報告制度と整合。TCFDやCDPなどの開示にも直接対応可能。 |
科学的根拠 | IPCC提案の排出係数を活用し、最新の知見に基づく設計。 |
実務的な柔軟性と継続改善 | 非技術者でも使いやすいよう改善され、企業・専門家のフィードバックを反映。 |
このように、GHGプロトコルは単なる「計算ガイド」ではなく、企業が国際的な説明責任を果たし、投資家・取引先からの信頼を獲得するための基盤といえます。特にサプライチェーン全体に広がるスコープ3への対応が求められる中、今後さらにその重要性は高まるでしょう。
参考:温室効果ガス(GHGプロトコル)~事業者の排出量算定及び報告に関する標準~<仮訳>
参考:TCFDとは|TCFDコンソーシアム
参考:CDPについて|CDP
参考:ISSB(国際サステナビリティ基準審議会)とは?開示基準の概要と日本企業への影響・動向を解説|三井物産
参考:気候変動対策を科学的に!「IPCC」ってどんな組織?|経済産業省 資源エネルギー庁
参考:気候変動をめぐる国際的なイニシアティブへの対応|経済産業省
参考:業種別取組事例一覧|グリーン・バリューチェーンプラットフォーム(環境省)
GHG排出量算定において、正確性と効率性を両立させるためには、適切なツールや専門的な支援の活用が欠かせません。スコープ1・2に加え、複雑で広範なスコープ3を含めて網羅的に算定するには、自社内リソースだけでの対応には限界があるためです。
近年では、GHGプロトコルや環境省ガイドラインに準拠した算定支援ツールやクラウド型SaaSが多数登場しており、以下のような機能を備えています。
支援手段 | 主な機能 | 特徴・活用例 |
---|---|---|
専用算定ツール | ・排出源ごとの入力補助 ・排出係数の自動適用 ・スコープ別集計 ・ダッシュボードによる可視化 ・報告書の自動生成 | ・算定プロセスの効率化と標準化が可能 ・属人化の回避や業務負荷の軽減に有効 ・例:環境省ツール、GHG Protocol公式ツール、アスエネ、ゼロボードなど |
外部コンサルティング | ・サプライチェーン全体の排出源特定 ・排出量のベンチマーク設定 ・削減戦略の策定支援 ・CDP/TCFD開示対応・第三者検証への対応支援 | ・専門家による高精度な分析が可能 ・戦略立案から実行支援まで一括対応可能 ・初期導入やスコープ3対応時に特に有効 |
これらの支援を活用することで、算定プロセスの属人化や集計ミスを防ぎ、社内の環境対応体制を可視化・標準化できます。とくにスコープ3対応や複数拠点の集約が必要な企業にとっては、外部専門家のノウハウや算定テンプレートの活用が不可欠です。
こうした取り組みは単なる数値管理にとどまらず、脱炭素経営やESG対応の基盤強化にもつながります。
参考:排出量算定に関するガイドライン|グリーン・バリューチェーン
プラットフォーム(環境省)
栃木県立日光霧降アイスアリーナでは、再生可能エネルギー導入のモデル事業として、太陽熱を活用した給湯設備を導入しました。寒冷地では太陽熱利用の効果が低いとされてきましたが、事前に精緻なシミュレーションを行うことで、冬季においても給湯需要を十分に賄えることが確認され、2019年に運用を開始しています。シャワー室や製氷車への温水供給に活用されており、既存の重油使用量を削減しています。
導入設備は、太陽熱集熱器(97㎡)と貯湯タンク(4,000L)などで構成されており、年間約33トン、導入前後比較で約43%のCO₂排出量削減効果が得られました。導入当初は落雷によるトラブルもありましたが、避雷器の設置によって対応し、現在は安定稼働しています。国際大会も開催される施設であることから、再エネ活用の効果を広く発信できる事例となっています。
NTTデータグループは、Scope3排出量の削減に向けて、主要サプライヤーとの連携を強化しています。
グループ全体では、Scope1+2について2035年までの実質ゼロ、Scope3については2040年までの実質ゼロを目標に掲げており、その実現に向けた施策の一環として、サプライヤーにも排出量削減の取り組みを要請しています。
具体的には、CDPサプライチェーンプログラムを活用し、自社が選定した主要サプライヤーに対してオンラインで質問票を送付し、排出量の実績や削減目標の回答を求めています。また、排出量削減の取り組みが進んでいるサプライヤーを優先的に調達対象とするなど、評価指標としても活用しています。
さらに、支援策として、排出量算定ツールを無償で提供したほか、特に課題が多かったソフトウェア開発委託業種のサプライヤー向けには、独自に作成した解説書を配布するなど、削減目標の設定を後押しする取り組みも行っています。
セブン‐イレブン・ジャパンでは、ペットボトルの水平リサイクル(ボトル to ボトル)を通じて、製品のライフサイクル全体でのCO₂排出量削減に取り組んでいます。
店頭で使用済みペットボトルを回収し、選別・圧縮したうえでリサイクル事業者へと搬出し、洗浄・再資源化された再生原料は、日本バリソン株式会社によりプリフォーム(成形前の中間製品)に加工され、飲料メーカーによって新たな飲料用ペットボトルとして再製品化されます。
この取り組みでは、再生原料100%を使用したペットボトルにおけるCO₂排出量を実測値で算定しており、バージン材との比較による環境負荷の可視化も実現しています。消費から再資源化、再利用までを一貫して循環させることで、原料調達から廃棄に至るライフサイクル全体の排出量を大幅に低減することが可能となります。
セブンイレブンはこのように、小売店舗を起点とした循環型モデルを構築し、日常の消費行動を通じて排出量削減に貢献できる仕組みづくりを推進しています。コンビニ業界における先進的な脱炭素の取り組みとして注目されています。
鳥取県日南町では、道の駅「にちなん日野川の郷」の運営により発生するCO₂排出量を、町有林に由来するJ-クレジットを活用して全量カーボン・オフセットしています。電力使用などによる温室効果ガスの排出に対して、地元の森林整備による吸収量をクレジットとして充当することで、地域内で排出と吸収をバランスさせる仕組みを実現しています。
また、販売するすべての商品に対し「1品につき1円」のクレジットを上乗せする寄付型のオフセット商品として販売し、消費者が買い物を通じて日南町の森林保全活動に参加できる取り組みも展開しています。これにより、環境意識の高い購買行動を促進すると同時に、地域のカーボンニュートラル推進にもつなげています。
本取り組みでは、合計137トンのCO₂が無効化されており、小規模自治体によるクレジット活用の好事例として注目されています。
GHG排出量削減への取り組みは、企業が持続的に成長するための重要な投資と捉えることができます。ここでは、GHG排出量削減が企業にもたらす多角的なメリットを解説します。
GHG排出量の削減は、環境対策としての効果だけでなく、企業価値やブランドイメージの向上にも大きく寄与する取り組みです。近年では、消費者や投資家、従業員といったステークホルダーの多くが、企業のESG(環境・社会・ガバナンス)への取り組み姿勢を重視しています。
さらに、近年は消費者におけるエシカル消費(倫理的消費)への関心が高まっています。
消費者庁が実施した調査によれば、2023年度の時点で「エシカル消費」という言葉の意味まで知っていると回答した人は8.6%と少数ながら、前年の7.6%から増加傾向にあります。また、「言葉は知っているが内容は知らない」という層も20.8%おり、今後の理解促進次第では、環境配慮型の商品・サービスの選択がさらに進む可能性が示唆されています。こうした意識の変化を踏まえ、GHG削減への積極的な取り組みは、以下のような多面的なメリットを企業にもたらします。
効果の側面 | 内容 |
---|---|
顧客からの支持 | 環境配慮型の商品・サービスへの選好により、 購買意欲の向上やファン層の拡大が期待されます。 |
投資家からの評価 | ESG投資の拡大に伴い、脱炭素経営を進める企業ほど資金調達や株価形成での優位性を持ちやすくなります。 |
人材確保と定着 | 社会課題に向き合う企業に共感を持つ人材が集まりやすく、従業員のエンゲージメントや定着率の向上につながります。 |
このように、GHG排出量削減の取り組みは、環境対応と同時に企業の社会的評価や競争力を高める経営戦略としても位置づけられています。特にエシカル意識の高い消費者や投資家に対しては、信頼性のあるブランドづくりに直結する要素といえるでしょう。
【事例】環境的責任プログラム|パタゴニア
パタゴニアは、環境保護を企業理念の中核に据え、製品の素材選定(オーガニックコットン、リサイクル素材など)、製造プロセス、サプライチェーン全体での環境負荷低減に徹底して取り組んでいます。製品の修理プログラム(Worn Wear)を推進し、使い捨てではなく長く愛用することを奨励しています。この一貫した姿勢は、環境意識の高い顧客層から絶大な支持を得ており、「環境に良い製品を選ぶならパタゴニア」という強いブランドイメージを確立しています。
GHG排出量の削減に取り組むことは、企業が今後の法規制や国際的な潮流に対応し、事業リスクを回避するための重要な経営行動です。
パリ協定以降、各国で排出削減の義務化やカーボンプライシングの導入が進み、日本国内でも、地球温暖化対策推進法に基づく排出量の算定・報告・公表制度や、サプライチェーン全体(Scope3)への対応要請が強まっています。これらの規制への先行対応は、罰則や制度変更リスクを回避し、将来的な競争力の維持にも直結します。
また、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)やISSBなど、国際的な開示枠組みへの対応も急務となっています。
TCFDが2021年10月に発表したステータスレポートによると、TCFD賛同企業における11項目の平均開示割合は、2018年の19%から2020年には32%に増加しており、世界的に開示の重要性が高まっていることが明らかです。(出典:気候関連財務情報開示に関するガイダンス 3.0|TCFD ガイダンス 3.0)
一方で、開示の質や水準には業種・地域ごとにバラつきがあるとされ、企業の対応力が差別化要因になりつつあります。
このような動向を踏まえ、GHG排出量削減に取り組むことで、企業は以下のようなリスク回避・優位性の獲得が期待できます
主な法制度・動き | 詳細 |
---|---|
地球温暖化対策推進法 | 温室効果ガス排出量の算定・報告・公表を 特定事業者に義務付け。 |
サプライチェーン排出量の開示促進 | Scope3対応として、取引先・調達段階も含めた 排出情報の可視化が進行中。 |
CDP・TCFD・ISSB等の国際枠組みへの対応 | 気候関連情報の開示が上場企業やグローバル取引企業にとって事実上の必須要件に。 |
こうした背景を踏まえると、GHG排出量削減に取り組むことは、結果として中長期的な企業価値の向上や事業の持続可能性の確保につながります。企業規模や業種を問わず、今後の競争力を左右する重要な取り組みです。
【事例】気候変動の取り組み|ソニーグループ
ソニーは、サステナビリティを経営戦略の核とし、2040年までに温室効果ガス(GHG)排出量の実質ゼロを目指しています。
自社からの直接排出(Scope1)からサプライチェーン全体(Scope3)に至るまで、GHG排出量をグローバルで徹底的に算定・管理。取引先や原材料サプライヤーにも、排出データ提供と削減活動への参加を積極的に働きかけています。
さらに、「RE100」に加盟し、国内外の事業所で再生可能エネルギーの導入を加速。TCFDやCDPといった国際的な情報開示基準にも早期から対応し、気候関連リスクの管理を強化しています。
製品の設計段階からライフサイクル全体のCO2削減を見据えたエコ商品開発も推進中です。
こうした透明性と先進的な取り組みが、投資家、取引先、そして消費者からの信頼やブランド価値向上に直接結びついています。
GHG排出量の削減は、省エネルギーや資源効率の改善を通じて、企業活動の運営コストを着実に低減する効果が期待されます。省エネルギーや資源効率の改善を通じて、企業活動の運営コストを着実に低減する効果が期待され、たとえば、以下のような具体的な取り組みにより、コスト削減と競争力の向上が両立します。
具体的な取り組み | 期待できる効果 |
---|---|
高効率設備の導入 | エネルギー消費量が抑えられ、燃料費・電力費の継続的削減が可能になります。 |
再生可能エネルギーの活用 | 中長期的には電力コストの安定化に寄与し、電力価格変動リスクを軽減できます。 |
サプライチェーンの最適化 | 物流ルートの見直しや廃棄物削減により、輸送費や処理コストの削減につながります。 |
環境配慮型製品の開発 | サステナビリティ志向の消費者に訴求し、市場での差別化や売上拡大を実現します。 |
こうした取り組みは単なる経費削減にとどまらず、市場からの信頼獲得やESG評価の向上にも貢献し、長期的には企業の競争力そのものを高める基盤となります。脱炭素社会の到来に備え、環境配慮を経営戦略として組み込むことは、持続的な成長と利益創出の両立に直結します。
【事例】GHG排出量削減
カルビーは、2030年までに温室効果ガス総排出量を2019年比で30%削減する目標を設定しています。
この目標達成のため、工場では再生可能エネルギーの導入や、J-クレジットを活用したカーボンオフセット電力への切り替えを進めています。特に清原工業団地内の事業所では、廃熱利用やバイオガス発電を導入し、化石燃料の使用量を削減。また、帯広工場では廃食油ボイラーを稼働させ、CO2排出量削減に貢献しています。
さらに、パッケージや資材の軽量化、環境配慮素材の導入を進めることで、資源循環にも貢献。これらのサステナビリティ目標や進捗は、公式ウェブサイトなどで広く公開されています。
GHG排出量削減への取り組みは、単なるコスト負担ではなく、新たなビジネス機会を創出し、企業のイノベーションを促進する重要なきっかけとなります。環境負荷の低減を前提に既存事業を見直すことで、技術革新や事業モデルの再構築が進み、市場における競争優位性の確立にもつながります。具体的には、以下のような新たな価値創出が期待されます。
効果 | |
---|---|
脱炭素技術の開発 | 再エネ、省エネ、カーボンリサイクル技術など、次世代産業を牽引する技術領域での競争力を強化 |
循環型ビジネスモデルへの転換 | 廃棄物の再利用や製品の長寿命化による新しい収益源の確保や顧客との継続的関係の構築に |
環境配慮型製品の市場投入 | エシカル消費の拡大により、新たな顧客層や成長市場の獲得が期待される |
企業イメージの向上と人材確保 | 社会課題に挑む姿勢は、優秀な人材の共感・参画を促し、組織全体の創造性と柔軟性の向上に |
このように、GHG排出量削減の取り組みは、事業成長と社会課題解決を同時に実現する攻めの経営戦略といえます。環境対応が企業の成長ドライバーとなる時代において、脱炭素を起点としたイノベーションこそが、次世代の企業競争力の向上につながるでしょう。
【事例】メタネーション技術|東京ガス
東京ガスは、二酸化炭素と水素から合成メタン(e-メタン)を製造する「メタネーション技術」の開発・実証を推進しています。
このe-メタンは既存の都市ガス配管網で利用でき、インフラ転用によるカーボンニュートラル都市ガスの普及を目指しています。
また、自社グループの工場やオフィスでは、再生可能エネルギーの活用や高効率設備の導入を進め、GHG排出量を継続的に削減。2025年以降の本格実装へ向けて、自治体や他企業とも連携し、脱炭素社会の実現に貢献する新規ビジネスモデルを構築中です。
さらに、TCFDをはじめとする国際ガイドラインに準拠した情報開示を積極的に行い、企業としての透明性と信頼性を高めています。
GHG排出量の削減は、企業の社会的責任を超え、経営の中核を担う戦略的テーマとなっています。排出量の算定から具体的な削減施策の実行、外部サービスの活用に至るまで、あらゆる段階が企業価値の向上、コストの最適化、新たなビジネス機会の創出へと直結します。
本記事でご紹介した制度動向、算定手法、先進事例、支援の活用方法は、すでに多くの企業が実践し、成果を上げている内容です。今まさに、貴社が次の一歩を踏み出す絶好のタイミングといえるでしょう。
持続可能な成長と競争力強化の実現に向けて、今日からGHG排出量削減に取り組みを始めましょう。
早稲田大学法学部卒業後、金融機関での法人営業を経て、中小企業向け専門紙の編集記者として神奈川県内の企業・大学・研究機関を取材。
2013年から2020年にかけては、企業のサステナビリティレポートの企画・編集・ライティングを担当。2025年4月よりフリーランスとして独立。
企業活動と社会課題の接点に関する実務経験が豊富で、サステナビリティ分野での実践的な視点に基づく発信を強みとしている。