サーキュラーエコノミーとは?仕組み・3原則・日本の定義までわかる入門ガイド

サーキュラーエコノミーとは、資源を無駄にせず、製品や素材を長く活用することで廃棄物を最小限に抑える循環型の経済モデルです。

従来の3R(リデュース・リユース・リサイクル)の取り組みをさらに進化させ、廃棄にしないこと」を目指します

本記事では、サーキュラーエコノミーの基本から、従来の概念との違いまで、やさしく解説します。

INDEX

1.サーキュラーエコノミー(循環経済)とは?簡単に解説


図① 「循環モデル」

サーキュラーエコノミーは、日本語で循環経済もしくは循環型経済と訳されます。
3R(リデュース・リユース・リサイクル)を取り入れつつ、製品や素材を設計段階から再利用修理リサイクルできるように工夫し、廃棄物を新たな資源として活用するのが特徴です。こうした資源の流れを支えるのが、「原料→生産→消費→リサイクル→原料」という循環型のモデルです(図①)。

こうした循環型の考え方は、国内外で制度やビジネスの中に取り入れられています。

次に、行政機関による定義や、なぜサーキュラーエコノミーが必要とされるのか、その背景を見ていきましょう。

※サーキュラーエコノミーの考え方を動画で簡単に知りたい方は、こちらも参考になります。

(1)サーキュラーエコノミー(循環経済)の定義

①環境省と経済産業省におけるサーキュラーエコノミー(循環経済)の定義

環境省と経済産業省におけるサーキュラーエコノミーの定義は、以下のとおりです。

環境省の定義:循環経済(サーキュラーエコノミー)とは、従来の3Rの取組に加え、資源投入量・消費量を抑えつつ、ストックを有効活用しながら、サービス等を通じて付加価値を生み出す経済活動であり、資源・製品の価値の最大化、資源消費の最小化、廃棄物の発生抑止等を目指すものです。
引用元:環境省 令和3年版「環境・循環型社会・生物多様性白書」2節 循環経済への移行

経済産業省の定義:市場のライフサイクル全体で資源の効率的・循環的な利用を図りつつ、ストックを有効活用しながら、サービス化等を通じ、付加価値の最大化を図る経済。
引用元:循環経済(サーキュラーエコノミー)|経済産業省関東経済産業局

環境省経済産業省はいずれもサーキュラーエコノミーを推進していますが、重点の置き方には違いがあります(表①)。

表① 環境省と経済産業省によるサーキュラーエコノミー(循環経済)の定義の比較

環境省経済産業省
目的環境負荷の軽減と持続可能な社会の実現経済活動の効率化と付加価値の創出
重点環境的視点市場価値の向上とサービス化
背景環境保全を優先する政策産業政策や経済成長の促進

環境省環境保全に重点を置き、経産省経済成長と環境保護の両立を重視しています。

②日本政府におけるサーキュラーエコノミー(循環経済)に関する法案

日本国内のサーキュラーエコノミーに関する主な法案・取り決めには、以下のようなものがあります(表②)。

表② 日本国内のサーキュラーエコノミーに関する主な法案・取り決め

法律概要
環境基本法環境保全の基本理念を定めた法律
循環型社会形成推進基本法3Rを軸に、環境負荷を抑えた資源利用を目指す基本法
資源有効利用促進法事業者に対して3Rの取り組みを義務付け、環型経済の基盤を構築する法律
プラスチック資源循環法プラスチック製品の設計・再利用・リサイクルを促進
家電リサイクル法家電製品(エアコン、冷蔵庫、テレビ等)の部品や素材をリサイクルして資源を有効活用

参考:https://www.env.go.jp/content/000138209.pdf

これらの法律は、分野ごとのアプローチでサーキュラーエコノミーの基盤を支えています。
制度面に加えて、国際的に共有されている基本原則にも触れておきましょう。

③サーキュラーエコノミー(循環経済)の3原則

サーキュラーエコノミー(循環経済)の3原則とは、2010年に英国で設立されたエレン・マッカーサー財団が提唱した次の3点です(表③)。

表③ サーキュラーエコノミーの3原則(エレン・マッカーサー財団による)

liminate waste and pollution廃棄物と汚染をなくす
Circulate products and materials価値の高い製品や材料を循環させる
Regenerate nature自然を再生する

参考:エレン・マッカーサー財団

「廃棄物と汚染をなくす」では、製品の設計段階から再利用しやすい素材を選び、有害物質の使用を避けることで、不要な廃棄物や環境汚染の発生そのものを防ぎます。

「製品や素材を循環させる」は、製品を使い捨てではなく“資源”と捉え、回収・再利用・再製造などによって資源の消費を抑えつつ、価値を長く保つ仕組みを指します。

「自然を再生する」は、再生可能資源の活用や森林の再生、土壌の回復といった生態系の修復を通じて、自然の循環機能を取り戻す取り組みです。

これら3つの原則は互いに連動し、サーキュラーエコノミーの中核を成す考え方です。

廃棄や汚染の回避、資源の有効活用、自然環境の回復を通じて、持続可能な社会と経済の両立をめざします。

(2)サーキュラーエコノミー(循環経済)の必要性

サーキュラーエコノミーは、資源の枯渇や環境問題といった課題に対応し、持続可能な社会を築くための新しい経済モデルとして注目されています。

以下では、その必要性を3つの観点から解説します。

①世界的な資源不足への対応

現代の経済活動はエネルギーや金属などの資源に大きく依存しており、その継続が資源の枯渇を招くおそれがあります。

特に、石炭や石油などの化石燃料、ウランなどの核燃料といったエネルギー資源、および鉄・銅・リチウム・ニッケルなどの金属資源が懸念されています(表④)。

表④ 枯渇が懸念されている主な資源

エネルギー資源石炭石油などの化石燃料ウランなどの核燃料
金属資源ベースメタル(鉄、アルミ、銅、亜鉛、スズ)、レアメタルチタン、リチウム、コバルト、ニッケル)

国立研究開発法人物質・材料研究機構の試算によれば、世界の経済成長に伴い2050年までに埋蔵量を上回る可能性がある金属として、以下の金属が挙げられています。

金、銀、銅、鉛、亜鉛、スズ、ニッケル、マンガン、リチウム、インジウム、ガリウム

これらの金属は、電気自動車や電子機器などの分野で需要が高まっており、今後ますます確保が難しくなると見られているため、資源の浪費を抑える新たな経済のしくみが急務となっています。

こうした背景から、廃棄を前提としない資源循環型のモデルであるサーキュラーエコノミーへの転換が世界的に求められています。

②新しい経済モデルの必要性

これまでのリニアエコノミー(直線型経済)では、「資源を採る → 使う → 捨てる」という一方向の流れが前提とされてきました。

この仕組みでは、資源の枯渇や廃棄物の増加を避けられず、持続可能性の観点から限界が見え始めています。

一方、サーキュラーエコノミーは、資源を繰り返し活用することを前提とした循環型の経済モデルです。

2つのモデルの違いを、以下に整理しました(表⑤)。

表⑤ サーキュラーエコノミーとリニアエコノミーの比較

サーキュラーエコノミーリニアエコノミー
基本概念資源を効率的に循環させ、廃棄物を最小限に抑える資源を調達・消費し、廃棄する一方向型
環境への影響資源の効率利用により環境負荷が低減廃棄物や汚染を生み出し、環境への負荷が大きい

このように、サーキュラーエコノミーは、限られた資源を有効に活かしながら経済活動を持続可能にするための構造的な解決策といえます。

③環境問題への対策

温室効果ガスの排出、生態系の破壊、海洋プラスチックごみの増加など、地球規模の環境問題は深刻さを増しています。

これらの課題に対応するためには、資源の利用や廃棄のあり方そのものを見直す必要があります。

サーキュラーエコノミーは、廃棄物の削減や資源の再利用を通じて、環境負荷の軽減に寄与する仕組みです。

特に製品の設計段階から環境への配慮を取り入れることで、持続可能な経済活動を実現できます。

また、内閣府の「気候変動に関する世論調査」では、地球環境問題への関心があると答えた人が全体の88.3%を占めており(図②)、年代を問わず多くの人々が環境問題に強い関心を示しています。

図② 地球環境問題に対する国民の関心

内閣府による「気候変動に関する世論調査」によると、地球環境問題について関心があると回答した割合は全体の8割以上を占めている。

引用:https://www.maff.go.jp/j/syokuiku/wpaper/r3/r3_h/book/part1/chap2/b1_c2_1_02.html

こうした社会的関心の高まりも、企業や政府がサーキュラーエコノミーに本格的に取り組む後押しとなっています。

2.サーキュラーエコノミー(循環経済)と他の取り組み・概念との違い

サーキュラーエコノミーは、「循環」をキーワードにした新しい経済モデルです。一方、3R(リデュース・リユース・リサイクル)やリサイクルといった既存の取り組み、あるいはリニアエコノミーやカーボンニュートラルといった概念とも混同されやすい側面があります。この章では、サーキュラーエコノミーが他の取り組みや考え方とどう異なるのかを整理し、理解を深めます。

図③ サーキュラーエコノミーの手法

図③に示すように、サーキュラーエコノミーでは単なる廃棄物削減にとどまらず、製品のライフサイクル全体を通じた資源の循環を重視しています。
以下のような点が、従来の3Rやリサイクルとの大きな違いです。

  • 廃棄物が発生しないよう設計段階から再利用を前提にした仕組みを作る
  • 修理や再製造(リマニュファクチュアリング)による製品の寿命を長くする
  • 自然環境の再生までを視野に入れた持続可能性を考える

3Rやリサイクルとは、「廃棄物をどう処理するか」に重点を置く点で共通していますが、サーキュラーエコノミーはその枠を超えて、経済全体の構造を見直す包括的な考え方です。

ここでは、サーキュラーエコノミー(循環経済)は、3Rやリサイクルといった従来の取り組みとどう異なるのか。また、リニアエコノミー(直線型経済)やカーボンニュートラルのような他の概念とどう関係しているのか、それぞれとの違いを整理しながら、循環経済の特徴を明らかにしていきます。

(1)サーキュラーエコノミー(循環経済)と3Rの違い

サーキュラーエコノミーと3Rは、どちらも資源の有効活用を目指す取り組みですが、取り組みの出発点と目指すゴールに大きな違いがあります。

表⑥に示すように、サーキュラーエコノミーは、廃棄物が発生しないよう製品やサービスの設計段階から仕組みを構築するのが特徴です。一方、3Rは廃棄が発生することを前提とし、その後にリデュース・リユース・リサイクルといった対応をとる仕組みです。

表⑥ サーキュラーエコノミー(循環経済)と3Rの比較

サーキュラーエコノミー3R
仕組み設計段階から廃棄物が出ない仕組みを構築を目指す廃棄の段階からリサイクルを行う
目標廃棄物を出さず、自然環境を再生可能な状態に回復することが目標廃棄物の削減により環境負荷を軽減するが、自然再生は含まれない

3Rとは、以下の3つの行動指針の頭文字をとった概念です(表⑦)。

表⑦ 3R

Reduce(リデュース)廃棄物を減らす
Reuse(リユース)繰り返し使う
Recycle(リサイクル)資源として再生利用する

このように、3Rは発生した廃棄物に対応する枠組みですが、サーキュラーエコノミーは廃棄物の発生そのものを抑えるための包括的な設計思想であり、両者の廃棄物へのアプローチは根本的に異なります。

(2)サーキュラーエコノミー(循環経済)とリサイクルの違い 

サーキュラーエコノミーにもリサイクルは重要な手法のひとつとして含まれますが、両者は取り組みの起点や全体の枠組みが異なります。

リサイクルは、すでに発生した廃棄物を資源として再利用する事後的な対処が中心です。使用済み製品を回収・分別し、再加工して再利用するプロセスは、3Rの「Recycle」としても広く知られています。

一方で、サーキュラーエコノミーは、廃棄物そのものを出さないことを目的とし、製品や素材の設計段階から再利用や長期使用を前提にした仕組みを構築する点が特徴です。

つまり、リサイクルが廃棄物の処理に焦点を当てるのに対し、サーキュラーエコノミーは廃棄物を生まない設計と仕組みづくりに主眼を置いた、より包括的なアプローチといえます。

(3)サーキュラーエコノミー(循環経済)とリニアエコノミーの違い

リニアエコノミー(直線型経済)は、「資源を採取し、使い、捨てる」ことを前提とした経済モデルで、製品が使用後に廃棄される流れを基本としています。再利用や資源循環の仕組みが十分に組み込まれておらず、資源の枯渇環境負荷の増大につながりやすいのが特徴です。
一方、サーキュラーエコノミーは、資源の有限性や廃棄物の環境負荷を前提に、資源の再利用や製品の長期利用、廃棄物の再資源化といった循環的な仕組みを構築しようとする考え方です。
表⑧は、両者の資源の使い方と廃棄物への考え方の違いをまとめたものです。

表⑧ サーキュラーエコノミーとリニアエコノミーの比較

サーキュラーエコノミーリニアエコノミー
資源の利用方法資源や製品を再利用・修理・再製造して最大限に活用資源を採取し、消費後に廃棄して新たな資源を必要とする
廃棄物への考え方廃棄物も資源と捉え、再利用可能な形で活用する廃棄物はそのまま処分され、環境への負荷を生じる

サーキュラーエコノミーでは、廃棄物を価値ある資源とみなし、製品の設計段階から循環を前提に考えることで、資源の効率的な利用と環境保護を両立を図ります。

こうした背景から、資源の有限性や環境問題の深刻化を受けて、リニア型からサーキュラー型への転換は今後ますます重要になると考えられています。

(4)サーキュラーエコノミー(循環経済)とカーボンニュートラルの違い

サーキュラーエコノミーとカーボンニュートラルは、どちらも持続可能な社会の実現を目指す考え方ですが、目的や取り組みの範囲に明確な違いがあります。
表⑨は、両者の違いを「目的」と「取り組みの範囲」という2つの観点から比較したものです。

表⑨ サーキュラーエコノミーとカーボンニュートラルの比較

サーキュラーエコノミーカーボンニュートラル
目的廃棄物を出さず、資源を効率的に再利用することで資源枯渇を防ぐ温室効果ガスの排出量を実質ゼロに抑える
取り組みの範囲製品設計、廃棄物の再利用、リサイクル、修理など、資源利用全体にわたるエネルギー転換(再生可能エネルギー)、炭素削減技術、植林などが中心

カーボンニュートラルは、二酸化炭素やメタンといった温室効果ガスの排出量実質ゼロに抑えることを目標とする取り組みです。再生可能エネルギーへの転換や、森林による炭素吸収などを通じて、気候変動の抑制を目指しています。

一方、サーキュラーエコノミーは、製品や素材を廃棄せずに繰り返し使うことで資源の枯渇を防ぎ、廃棄物の発生を最小限に抑えることを目指す経済モデルです。対象は温室効果ガスに限らず、資源そのものの循環的な活用に広がっています。

環境負荷の低減という点では共通していますが、カーボンニュートラルは主に気候変動対策サーキュラーエコノミーは資源利用の最適化を目指すというように、アプローチする対象が異なる点に注意が必要です。

3.サーキュラーエコノミー(循環経済)のメリットと課題

ここではサーキュラーエコノミーがもたらす具体的なメリットと、実現に向けた課題について解説します。

(1)サーキュラーエコノミー(循環経済)のメリット

①資源の節約

サーキュラーエコノミーは、資源の効率的な利用再利用を促進することで、限りある資源を節約します。新たな資源採取を減らすことにより、資源枯渇のリスク軽減にもつながります。

②コストダウン

再利用可能な素材や部品の活用、製造工程での廃棄物削減により、原材料費や廃棄物処理費用の削減が期待できます。結果として、製造から販売までの全体コストの圧縮につながります。

③企業イメージの向上

環境配慮への取り組みは、消費者の評価を高め、ブランド価値や企業の社会的信頼性を向上させる要因となります。

④新規事業機会の創出

リサイクルやリユースに特化した製品、サブスクリプション型の提供モデル、修理・再生サービスなど、これまでにない新たなビジネスの可能性を生み出します。

⑤SDGsの達成

サーキュラーエコノミーは、SDGs(持続可能な開発目標)と密接に関係しており、以下の目標に貢献しています。

表⑩ サーキュラーエコノミーと深く関連するSDGs(持続可能な開発目標)の目標

目標9産業と技術革新の基盤をつくろう持続可能な産業化を推進し、レジリエントなインフラを整備、イノベーションの拡大を図る。
目標12つくる責任、つかう責任持続可能な消費と生産のパターンを確保し、資源利用の効率を高める
目標13気候変動に具体的な対策を気候変動とその影響に立ち向かうため、緊急対策を取る
目標14海の豊かさを守ろう海洋とその資源を保全し、持続可能な利用を推進する
目標15陸の豊かさを守ろう森林管理の持続可能化、砂漠化や土地劣化の阻止、生物多様性損失の防止を目指す

引用:国際連合広報センター

サーキュラーエコノミーは、SDGsの達成に向けた具体的な行動を示すフレームワークであり、資源の効率的な利用、環境保護、気候変動への対応、技術革新を一体的に推進します。

(2)サーキュラーエコノミー(循環経済)の課題

サーキュラーエコノミーに取り組む際には、以下のような課題に注意が必要です。

①製品開発における制約

循環型の設計には、再利用可能な素材の選定長期使用の前提設計が求められ、コストや性能面での制約が発生するおことがあります。現状の企業活動において実現できるかどうかが課題となる場合があります。

②高度な技術力が必要

素材再生技術や修理・分解・再製造などの分野では、専門技術や人材の確保が追いつかないケースも見られます。これらは循環経済への移行を阻む重要な要因となっています。

4.サーキュラーエコノミー主な実践手法と企業の取り組み事例

サーキュラーエコノミーを実現するためには、廃棄物の削減や資源の再利用を前提とした製品設計や仕組みづくりが求められます。
この章では、循環型の仕組みづくりに貢献する代表的な実践手法と、それを実際に展開している企業の具体的な取り組みを紹介します。

(1)完全循環型素材と受注生産による衣服の資源循環(FABRIC TOKYO)

図④ 完全循環型素材を使用した裏地のカスタマイズが可能なジャケット

引用:https://corp.fabric-tokyo.com/news/4UrWKHKFvPOlpAEZOoAtGG

株式会社FABRIC TOKYOは、デジタル世代向けのビジネスウェアブランドとして、オーダースーツのD2C(Direct to Consumer)モデルを展開しています。同社は使用済みの衣服を店頭で回収し、ポリエステルやウールなどの生地を溶かして再精製することで、完全循環型素材を活用した新たな服の製造をおこなっています(図④)。
さらに、受注生産によって過剰在庫や大量廃棄の発生を抑える仕組みを導入しており、廃棄物の最小化と資源循環の両立を実現しています。
本事例は、サーキュラーエコノミーの「設計段階から廃棄物を出さない仕組みづくり」という考え方に対応しており、衣服の資源循環と在庫ロスの削減に貢献しています。
また、自宅の不要な衣服を顧客から回収することにより、資源循環への参加意識を促すとともに、新規顧客の獲得SDGsにも貢献しています。

(2)異種プラスチックの再資源化による循環素材の創出(esa)

図⑤ 100%サステナブルな再生プラスチックペレットRepla®︎

産業廃棄物として焼却されてきたプラスチックを回収し、マテリアルリサイクルを経てペレットとして再生

引用:https://esa-gl.com/

株式会社esaは、異種素材が混在する複合プラスチックのリサイクルに取り組むベンチャー企業です。これまで産業廃棄物として焼却されていた混合プラスチックを回収し、独自設備と特殊技術を用いてペレット化することで100%サステナブルな再生素材「RePla」を商品化しています(図⑤)。
この技術により、従来はリサイクルが難しかった異種構造の素材を、原料として再利用可能な形に変換することが可能になりました。
さらに、素材の分別・選別・洗浄・乾燥といった工程の簡略化エネルギー消費量の削減にも効果を発揮しています。
RePlaは他社製品の原料としても活用され、素材の循環利用を支えています。
本事例は、サーキュラーエコノミーの「資源の再利用と再設計による循環の仕組みづくり」に対応しており、再生素材の利活用と産業廃棄物削減に貢献しています。

(3)冷媒の再利用による空調機の循環型モデル構築(ダイキン工業)

図⑥ 業務用マルチエアコン「VRV L∞P(ループ) BY DAIKIN」

エアコンに搭載されている冷媒を回収・再生し、空調機に搭載している製品シリーズ

引用:https://go.daikin.co.jp/l/999411/2022-12-26/4fww

ダイキン工業株式会社は、空調機に使用される冷媒(フロンガス)回収・再生し、再び自社製品に活用する循環型の仕組みを構築しています(図⑥)。
フロンガスは本来であれば使用後に破壊処理されることが多く、温室効果ガスとしての環境負荷も懸念されてきました。

同社は、使用済み冷媒を回収・再生した上で、新たな空調機に充填し、「再生冷媒空調機『VRV LooP by Daikin』」として製品化、この取り組みにより、冷媒の再資源化による廃棄量削減と、地球温暖化対策への貢献の両立を実現しています。

本事例は、サーキュラーエコノミーの「製品ライフサイクル全体で資源を循環させる仕組み」に対応しており、冷媒の再利用と温室効果ガスの削減に貢献しています。

(4)再生素材と詰め替え容器による循環型パッケージ戦略(資生堂)

図⑦ 資生堂による「Sustainability INNOVATION」

資源を有効活用し製品のライフサイクルを通じて環境負荷を軽減

引用:https://corp.shiseido.com/jp/sustainability/env/action3.html

株式会社資生堂は、化粧品の容器に使用されるプラスチックを対象に、再生素材や詰め替え容器を活用することで、循環型のパッケージ戦略を推進しています(図⑦)。海洋プラスチックごみや資源消費の問題に対応するため、2025年までに100%サステナブルなプラスチック製容器を実現することを目標に揚げています。

具体的にはリサイクル・リユース可能な設計、バイオマス由来素材・リサイクル素材の利用、容器の軽量化、つめかえ・つけかえ可能な容器によるリユース、バージン・石油由来プラスチック量の削減、単一素材を使った容器のリサイクル適性の向上など多面的に取り組んでいます。

これらの施策により、使用済みプラスチックの再資源化と廃棄量の削減を実現するとともに、製品ライフサイクル全体での環境負荷低減に貢献しています。
本事例は、サーキュラーエコノミーにおける「リソース循環型」、「再生可能資源活用型」および「製品寿命延長型」のビジネスモデルに対応するものであり、資源の有効活用と持続可能な製品設計を両立させています。

5.サーキュラーエコノミーの今後

日本では、サーキュラーエコノミーの実現に向けて国や地域社会が一体となり、さまざまな取り組みが進められています。

ここでは、国内外の最新動向をふまえつつ、今後の展開や課題、広がりの可能性について解説します。

(1)日本での主な展望

①大阪ブルー・オーシャン・ビジョン

日本は2019年6月のG20大阪サミットにおいて、2050年までに海洋プラスチックごみをゼロにすることを目指す「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」を提案し、各国首脳間で共有しました。このビジョンの発端は、アジア地域の新興国や途上国から多く流出しているとされる海洋プラスチックごみ問題への対応です。

2021年3月時点で86の国と地域が賛同しており、各国は情報共有と相互学習を進めています。

同サミットに関連して開催されたG20持続可能な成長のためのエネルギー転換と地球環境に関する関係閣僚会合では、海洋プラスチック問題の具体的な取り組みとして「G20海洋プラスチックごみ対策実施枠組」が採択されています。

2050年カーボンニュートラルの実現

日本では、2050年までにカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)を達成するため、以下のロードマップに基づいて、国と地域が一丸となって取り組んでいます(表⑪)。

表⑪ 2050年までのカーボンニュートラルのロードマップ

2030年度までの目標・100カ所以上の脱炭素先行地域を設置・重点対策の実行
基盤的施策の推進・継続的・包括的支援・ライフスタイルイノベーション・制度改革
全国への展開・2050年を待たずに可能な限り早期の脱炭素達成を目指す

参考:https://www.env.go.jp/earth/2050carbon_neutral.html

多くの地方公共団体が、2050年までに二酸化炭素排出量実質ゼロを目指し、地域ごとの脱炭素計画を策定しています。これにより、全国的な脱炭素化の動きが加速しています。

③2030年にはサーキュラーエコノミーの市場規模が約80兆円になる見込み

図⑧ サーキュラーエコノミーの市場規模の推計(日本)

日本政府の試算によれば、国内におけるサーキュラーエコノミー(循環型経済)の市場規模は、2020年の約50兆円から、2030年には80兆円、2050年には120兆円に拡大すると見込まれている。今後の成長分野として期待が高まっている。

https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/sangyo_gijutsu/resource_circulation/pdf/001_05_00.pdf

を元に作図

日本政府の試算によれば、2030年にはサーキュラーエコノミーの市場規模は約80兆円になる想定であり、さらに2050年には120兆円にまで拡大する見込みです(図⑧)。

資源の枯渇や調達リスクの増加、廃棄物処理の難しさを懸念する国々が、廃棄物の越境規制を強化する可能性があり、サーキュラーエコノミーへの対応が遅れれば成長機会を逃すだけでなく、マテリアルの輸入コスト上昇国内物価への影響など、経済的な損失を被る可能性もあります。そのため、早急な対応が求められています。

こうした国内の取り組みは、グローバルな潮流とも連動しています。次に、世界での主な展望を見ていきましょう。

(2)世界での主な展望

①サーキュラーエコノミー市場規模が2030年に全世界で4.5兆ドルに拡大

2030年までに全世界におけるサーキュラーエコノミーは市場規模で4.5兆ドルに達すると見込まれています。

これは2030年に、資源の需要と供給に80億トン(年間4.5兆ドルの経済損失に相当)もの需要ギャップが生じると予想されているためです。

さらにサーキュラーエコノミーに取り組む企業に対して、投資家やファンドなども積極的に融資を行っていることも追い風となり、世界的な市場規模も拡大をたどっています。

②国際プラスチック条約により国際的なプラスチック汚染を2040年までに解決

サーキュラーエコノミーに関する世界的な制度動向のひとつが、国際プラスチック条約です。これは、2040年までにプラスチック汚染を根絶することを目指して策定された、法的拘束力を持つ国際協定です。各国に対して製造から廃棄までのライフサイクル全体の見直しを求め、プラスチックの環境負荷を減らす包括的な取り組みを促します。

表⑫に示すように、条約は以下の3つの行動指針を柱としています。

表⑫ 国際プラスチック条約による行動指針

プラスチック製品のライフサイクル全体の見直し製造から廃棄までの全過程で環境への影響を削減する
海洋を含む環境汚染の削減プラスチック汚染を防ぎ、持続可能な環境を維持する
2040年までにプラスチック汚染を根絶プラスチックごみの排出ゼロを目指す

参考:https://www.env.go.jp/press/press_04058.html

すでに排出されたプラスチックごみの処理だけでなく、いかにしてプラスチックごみを出さない社会設計を行うかが今後の国際的な課題となっています。

6.まとめ

サーキュラーエコノミー(循環経済)は、資源の有限性や環境負荷の増大といった社会課題に対応するために、世界各国で注目されている新たな経済モデルです。

本記事ではまず、その基本的な定義や背景、従来の取り組みや概念との違いについて解説しました。続いて、代表的な5つのビジネスモデルに基づく企業の取り組みを紹介し、日本および世界における今後の展望を整理しました。

サーキュラーエコノミーの実現には、製品設計から資源調達、消費、廃棄、再利用に至るまで、あらゆる段階での見直しが求められます。それは企業や行政だけでなく、わたしたち一人ひとりの選択や行動にも深く関わるものです。

持続可能な未来を築くために、いまサーキュラーエコノミーの考え方を自分ごととして捉え、行動に移すことが求められています。

監修

海洋・気候・環境などの分野を中心に、科学記事の執筆・編集に携わる。雑誌やウェブメディア、書籍にて、研究の背景や一次情報に基づいた丁寧な解説を行うことを心がけている。

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