金属資源は幅広い用途での利用拡大に伴い、資源の枯渇や環境負荷といった問題が深刻化しています。そこで限りある金属資源の循環利用を前提に製品設計を行うサーキュラーエコノミーが注目を集めています。
本記事では、金属資源におけるサーキュラーエコノミーの必要性とその影響、取り組む際の課題を解説します。
五十鈴株式会社の「icサーキュラーソリューション」は、現在のサーキュラーエコノミーが抱える課題に多面的にアプローチし、多用な手法を組み合わせて企業の環境経営を包括的に支援します。
1. 金属業界におけるサーキュラーエコノミーが重要とされる理由

ここでは、なぜ金属業界においてサーキュラーエコノミーへの移行が喫緊の課題であり、その重要性が高まっているのかについて、複数の側面から詳細に解説します。
(1)鉱物資源の需要増加

IEA(国際エネルギー機関)の重要鉱物に関する報告書によると、2040年の鉱物資源の需要は右肩上がりで急増すると予測されています。
2050年カーボンニュートラル達成に向け、製品の高機能化や高性能化に取り組む際に必要となる、蓄電池、モーター、半導体などの部品生産量が拡大する見込みです。
鉱物資源の価格も2024年時点において上昇傾向にあり、今後さらに金属資源の供給不足が生じる可能性があります。
(2)資源輸入リスクの最小化

日本国内で利用される金属資源の約90%が海外からの輸入に依存しています。
このため、資源価格の高騰や供給不足が発生すると、製造業やエネルギー産業において必要量を調達できなくなるリスクが存在します。
たとえば、中国が2018年に廃棄物輸入規制を開始した結果、日本の廃プラスチック輸出量は激減しました。
この規制により、日本国内での廃棄物処理負担が増加し、リサイクル体制の整備の遅れが課題として浮き彫りになりました。こうした背景から、金属資源を含む国内循環型モデルの構築が必要です。
(3)金属資源の枯渇リスク

金属資源は、2050年までに累計で現有埋蔵量を上回る数倍の使用量が必要になると試算されています。
銅・鉛・亜鉛・金・銀・スズ・ニッケル・アンチモン・インジウムといった金属資源では、埋蔵量ベースを上回る消費が発生する可能性も指摘されており、今後の対策が重要となります。
現有埋蔵量 | 現在の技術で採掘可能であり、採掘コストを考慮しても利益が見込める金属資源の量 |
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埋蔵量ベース | 技術的には採掘可能であるが、経済的な制約などにより採掘対象となっていない資源量 |
世界各国が共通認識のもと、金属資源の持続可能な利用に向けて対策を講じなければ、2050年までに一部の金属資源の供給が逼迫するリスクが高まると考えられます。
(4)2050年カーボンニュートラルの実現
カーボンニュートラルとは、CO2等の排出を実質的にゼロを目指す世界的な取り組みです。
金属生産時の高エネルギー消費や排出されるCO₂は、地球環境への負荷を増大させており、カーボンニュートラルの実現に向け、以下のような施策が注目されています。
- リサイクルを前提とした製品設計の推進
- 金属廃棄物の削減
カーボンニュートラルとサーキュラーエコノミーは環境面において重要な課題に取り組んでいる点で共通しており、サーキュラーエコノミーを推進することでカーボンニュートラルの達成にもつながります。

(5)国家戦略としてサーキュラーエコノミーへの移行

日本政府は、2030年までに国内のサーキュラーエコノミー市場規模を2020年の約50兆円から80兆円以上へ拡大する目標を掲げています。この目標達成に向けて、以下のような取り組みが進められています。
政策支援 | 国や自治体による循環型社会構築のための 法整備や支援策 |
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企業のリーダーシップ | 大手企業を中心とするリサイクル技術の導入や 資源循環型ビジネスモデルの構築 |
民間との連携 | 消費者への啓発活動を通じた、 全社会的な取り組み |
リサイクル技術の高度化や再生可能エネルギー技術の普及などのサーキュラーエコノミーに関する技術開発や製品革新による新ビジネスの創出が期待されています。
2.サーキュラーエコノミーによる金属資源への影響

ここまででお伝えしたように、金属資源は地政学的リスクや埋蔵量の限界といった供給不安を抱えており、安定調達と環境負荷低減の両立が求められる分野です。
ここではサーキュラーエコノミーが金属資源にどのような影響を与えるのかについて解説します。
(1)産業構造への影響
サーキュラーエコノミーは、直線型経済からの転換を促し、二次資源の経済性や供給安定性の向上といった観点から産業構造に影響します。
①二次資源の経済性の高まり
カーボンニュートラルの実現に向け、世界中で銅やレアメタルなどの資源獲得が激化すると、金属資源の入手が困難になり、二次資源の経済性が高まることが予想されます。以下のような理由が挙げられます。
コストの削減 | 二次資源のリサイクルにはエネルギー消費が少なく、結果としてコストを抑えられる |
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供給の安定化 | 輸入依存を軽減でき、供給リスクを下げられる |
CO₂排出量の多い天然資源の採掘や精錬プロセスは、今後さらに厳しい環境規制の対象となる可能性があり、これが価格高騰の一因(グリーンフレーション)につながる可能性があります。
このような背景から、天然資源に代わり二次資源の市場価値を高める動きが、欧州やアジアを中心に加速すると考えられます。なお、グリーンフレーションの意味については、以下の記事で詳しく解説しています。

②供給安定性の向上
天然資源は、価格の高騰や供給量の制限といった問題が顕在化しやすく、必要量を安定的に確保することが難しいという課題があります。
よって金属資源においてサーキュラーエコノミーを推進できれば天然資源への過剰依存をなるべく回避しつつ、持続可能な資源供給の仕組みを確立できるでしょう。
(2)金属資源の循環利用による経済的・環境的効果
金属資源の循環利用を進めることで、以下のような効果が期待されます。
CO₂排出量の削減 | 採掘や精錬の工程を減らし、 温室効果ガスの発生を抑制 |
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コスト削減 | 既存製品のリサイクルや アップデート実現 |
安定供給 | 入手困難な天然資源への依存を軽減 |
新ビジネスの創出 | 製造工程の見直しなどにより、 新たな事業機会が得られる |
トレーサビリティの向上 | 原料の出所を明確化し、 信頼性が向上する |
調達リスクの軽減 | 価格変動が激しい 特定金属の調達リスクを抑制する |
金属資源の保有国が、社会情勢の悪化や紛争に巻き込まれると、希少資源の輸入規制や金属価格の高騰が生じ、悔過として物価高騰につながります。そのため、企業だけでなく消費者にも多大な影響を及ぼします。
(3)技術開発とイノベーションへの影響
金属資源のサーキュラーエコノミーを推進するうえで、技術開発とイノベーションは不可欠です。
多様な金属が混在する複雑な製品から高純度の金属を分離・精錬する技術、さらには製品の状態を評価し、再利用や修理、リサイクルといった最適な処理方法を判断する技術も重要となります。
たとえば、使用済み製品から希少金属を回収する都市鉱山事業、製品の機能維持をサービスとして提供するシェアリングエコノミー、ブロックチェーンなどを活用した資源のトレーサビリティ管理システムなどが挙げられます。
さらにAIによる廃棄物の自動選別システムや、IoTを活用した製品の使用状況・劣化状態のモニタリング、最適な回収ルートの最適化などが、金属資源の循環効率を飛躍的に向上させる可能性があります。
以下の報道動画では、中学校でパソコン解体を通じて資源や環境問題について学ぶ取り組みを報じています。
3.金属のサーキュラーエコノミーにおける主要な課題
持続可能な資源循環システムを構築し、2050年カーボンニュートラルを実現するためには、サーキュラーエコノミーへの移行が不可欠です。しかし、この取り組みを社会全体で推進していくためには、克服すべきいくつかの主要な課題が存在します。
ここでは、金属のサーキュラーエコノミーにおける主要な課題について解説します。
(1) 複雑な製品からの金属回収の難しさ
現代の製品は、多様な素材が複雑に組み合わされており、特に電子機器や自動車などには、多種多様な金属が微量ながらも含まれています。
これらの製品が寿命を迎えた際に、含まれる金属を効率的かつ経済的に回収することは、サーキュラーエコノミーを実現する上で大きな課題となります。
(2) 高品質な再生材を安定的に供給すること
サーキュラーエコノミーにおける金属資源の循環利用において、高品質な再生材を安定的に供給することは、克服すべき重要な課題の一つです。
再生材の品質が不安定であったり、必要量を継続的に確保できなかったりすると、企業は再生材の利用を躊躇し、依然として新規採掘された天然資源に依存することになりかねません。この課題の背景には、以下のような要因があります。
- 多様な使用済み製品からの安定的な原料確保が困難
- 高品質な再生材を生成する高度技術の開発・普及が不十分
- 不純物混入による再生材の品質不安定化リスク
- 再生材の統一的な品質基準の未確立と品質保証の難しさ
- 回収量の変動性と効率的な供給体制の構築遅れ
これらの課題を克服し、高品質な再生材を安定的に供給するためには、技術開発、標準化、サプライチェーンの最適化など、多角的な取り組みが求められます。
(3) 既存の経済システムやビジネスモデル
現在の主流は、資源を採取・加工し、製品を製造・販売し、最終的に廃棄するという「大量生産・大量消費・大量廃棄」を前提とした直線型経済(線形経済とも呼ばれます)です。
このモデルは、新規資源の安価な調達と効率的な大量生産・販売に最適化されており、企業の競争力や評価も、主に新規製品の販売量やコスト効率に偏重しがちです。
また、使用済み製品の回収、分解、選別、再生材の製造、そしてその再生材を新たな製品に利用するという、サーキュラーエコノミーに必要な複雑なサプライチェーンの構築や、関係者間の連携が既存のシステムでは困難です。

(4) 消費者および社会全体の意識向上
金属資源を含むサーキュラーエコノミーへの移行は、企業や政府の取り組みだけでなく、製品の利用者である消費者、そして社会全体での理解と協力が不可欠です。しかし、現状では、この意識向上が大きな課題となっています。
まず、消費者レベルでは、製品がどのように作られ、廃棄後にどうなるかについての関心や知識が十分でない場合があります。たとえば、使用済み製品の適切な分別やリサイクル拠点への持ち込みといった行動は、資源循環の第一歩ですが、その重要性が広く認識されていないことがあります。
また、耐久性の高い製品を選ぶ、修理して長く使う、あるいはシェアリングサービスなどを利用するといった、直線型経済(大量生産・大量消費・大量廃棄)からの脱却につながる消費行動への意識転換もまだ途上です。

このように、消費者一人ひとりの行動変容と、それを支える社会全体の機運醸成が進まなければ、高品質な再生材の安定供給や効率的な回収システムの構築といった、他の課題克服も難しくなります。
3. 課題克服に向けた対策と取り組み
(1) 設計段階からのリサイクル・分解容易性の考慮(エコデザイン)
エコデザインとは、その後のリサイクルや分解の容易さを徹底的に考慮することで、製品のライフサイクル全体(原材料調達から製造、使用、廃棄、そしてリサイクル・再利用)を通して環境負荷を最小限に抑えることを目指します。
特に金属製品においては、エコデザインの考え方を取り入れることで、前章で述べた「複雑な製品からの金属回収の難しさ」や「高品質な再生材の安定供給」といった主要な課題の克服に直結します。
具体的なエコデザインの要素としては、以下のようなものが挙げられます。
エコデザインの要素 | 具体的な取り組み | 目的 |
---|---|---|
分解容易性の向上 | ・特別な工具や複雑な手順なく短時間で分解できる構造にする ・異なる素材(金属と非金属)の接合にねじや嵌合を利用する ・モジュール構造を採用する | 製品寿命後の回収・リサイクル・再利用を容易にする |
素材の選択と集約 | ・使用する金属の種類をできるだけ少なくする ・リサイクルが容易な合金や再生材を積極的に利用する ・価値の高い金属が集まっている部品を分離しやすく設計する | リサイクル効率を高め、高品質な再生材の回収を促進する |
部品のリユース・修理可能性 | ・製品全体ではなく一部部品の交換・修理で製品寿命を延ばせる設計にする ・標準化された部品を使用する | 製品の長寿命化、廃棄物の削減、資源の有効活用 |
含有情報の表示 | ・製品や部品に、使用されている金属の種類やリサイクル方法に関する情報を明確に表示する | 適切なリサイクル・処理方法の判断を支援し、資源循環を促進する |
設計段階でこうしたエコデザインの原則を組み込むことで、使用済み製品からの金属回収率が向上し、不純物の混入を防ぎやすくなるため、高品質な再生材を安定的に生産するための基盤が築かれます。また、分解や選別のコスト削減にも繋がり、リサイクル全体の経済性を高める効果も期待できます。
(2) 高度な選別・精錬技術の開発と導入
金属資源のサーキュラーエコノミーを推進する上で、使用済み製品から高品質な二次資源を効率的に回収するためには、高度な選別・精錬技術の開発と導入が不可欠です。
現代の製品は多種多様な素材が複雑に組み合わされており、特に電子機器や自動車などには、微量ながらも様々な金属が含まれています。これらの金属を、他の素材や不純物と正確に分離し、求める品質レベルまで高める工程には、高度な技術力が求められます。
近年では、金属のサーキュラーエコノミーを支えるために、以下のような選別・精錬技術の開発や実用化が進められています。
技術名 | 概要・原理 | 特徴・利点・用途 |
---|---|---|
自動選別技術 | AIや画像認識技術、X線、近赤外線、渦電流などを活用し、廃棄物の組成や種類を自動的に識別・選別するシステム。 | 人手に頼るよりも高速かつ高精度な選別が可能。 |
湿式精錬技術 | 化学的な反応を利用して、目的の金属を選択的に溶出・分離・回収する技術。 | 複雑な組成を持つ廃棄物や、低濃度の金属を含む溶液からの金属回収に有効。 |
乾式精錬技術 | 高温処理によって金属を分離・精製する技術。 | 金属スクラップの溶解や、合金成分の調整などに用いられる。 |
生物学的技術 | 微生物の代謝機能を利用して金属を回収する(バイオリーチングなど)。 | 環境負荷が比較的少なく、低品位鉱石や特定の廃棄物からの金属回収に有効である可能性が期待される。 |
超臨界流体技術 | 高温高圧下の流体(特に二酸化炭素)が持つ溶解力や抽出能力を利用して、特定の金属を選択的に分離・回収する技術。 | 環境負荷が少なく、高効率な回収が期待される。 |
これらの技術を社会実装するためのコスト削減や標準化、そして技術を持つ企業と廃棄物処理・リサイクル業者との連携強化が、今後の重要な課題となるでしょう。
(3) 効率的な回収・流通ネットワークの構築
金属資源のサーキュラーエコノミーを社会全体で機能させるためには、使用済み製品や金属スクラップを効率的に回収し、再生処理施設へ流通させるためのネットワーク構築が不可欠です。
こういった課題を克服し、効率的な回収・流通ネットワークを構築するためには、以下のような多角的なアプローチが求められます。
回収拠点の拡充と周知徹底 | 自治体や小売店、専門業者など、多様な主体が連携し、消費者がアクセスしやすい回収拠点を増やすとともに、その場所や方法を積極的に広報する |
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排出者へのインセンティブ導入 | 適切な分別や回収への協力に対して、ポイント付与や手数料減免などの経済的なインセンティブを検討する |
回収・選別技術の進化と連携 | AIやIoTを活用した自動回収システム、効率的な一次選別技術などを開発・導入し、回収段階での品質向上とコスト削減を図る |
広域連携と物流システムの最適化 | 複数の自治体や企業が連携し、回収ルートや運搬方法を最適化することで、物流コストを削減 |
トレーサビリティシステムの導入 | 回収された製品やスクラップの発生源、種類、量が追跡可能なシステムを構築し、データの蓄積・分析を通じて、より効率的な回収・流通計画の策定に役立てる |
効率的な回収・流通ネットワークは、サーキュラーエコノミーにおける金属資源循環の「動脈」機能を担う重要な要素です。このネットワークが円滑に機能することで、高品質な二次資源を安定的に供給するための基盤が強化され、金属資源の持続可能な利用が促進されます。
(4) 法規制や経済的インセンティブの整備
金属資源のサーキュラーエコノミーを社会全体で効果的に推進するためには、市場メカニズムだけに頼るのではなく、それを補完・促進するための法規制の整備や経済的なインセンティブの導入が不可欠です。
2025年時点でリサイクルに関する法規は存在しますが、サーキュラーエコノミーの思想に基づいた製品設計(エコデザイン)の義務化や、再生材利用を強力に後押しする仕組みはまだ十分とはいえません。法規制は、企業や個人の行動を強制力をもって変容させ、資源循環を社会システムとして定着させる上で重要な役割を担います。具体的には、以下のような整備が求められます。
- エコデザインの義務化・基準強化
- 回収・リサイクルの目標設定と義務化
- 再生材の利用促進に関する基準・表示
- 有害物質の管理強化
- トレーサビリティシステムの構築義務
法規制による「義務」に加え、経済的なインセンティブは、企業や消費者の自発的な行動変容を促し、サーキュラーエコノミーへの移行コストを補填する役割を果たします。
(5) 企業間の連携と新たなビジネスモデルの模索
持続可能な金属資源の循環システム、すなわち金属のサーキュラーエコノミーを社会全体で実現するためには、単一の企業努力だけでは限界があります。資源の採掘から製品製造、使用、回収、そしてリサイクル・再利用に至る複雑なバリューチェーン全体に関わる、様々な主体間の「連携」が不可欠です。
- 製品設計を行うメーカー
- 製品を販売・利用する企業や消費者
- 使用済み製品を回収・選別する業者
- 金属を精錬・再生材を供給するリサイクル業者
- 活動を支援する技術開発企業
これらの主体がバラバラに活動するのではなく、情報や資源を共有し、共通の目標(資源循環の最大化、環境負荷低減)に向かって新しいビジネスモデルを構築することで、初めて効率的かつ経済的な循環システムが構築できます。以下の表では新しいビジネスモデルの一例をご確認いただけます。
製品のサービス化(Product as a Service: PaaS) | 製品を販売せず、その機能や性能をサービスとして提供し、利用料を得るモデル。製品の所有権が提供者側に残るため、回収、メンテナンス、修理、リサイクルまで責任を持って行うインセンティブが生まれる。 |
---|---|
シェアリングエコノミー | 製品を不特定多数のユーザーが共有することで、製品の使用効率を高め、新たな製品の製造量を削減する。 |
再生材を活用した高付加価値製品の開発 | 高品質な再生材を安定的に供給し、これを用いて新規資源と同等以上の性能やデザインを持つ製品を開発・販売するモデル。再生材の市場価値を高め、循環の経済性を向上させる。 |
リバースロジスティクス(回収物流)の最適化と収益化 | 使用済み製品やスクラップの効率的な回収ネットワークを構築し、これを単なるコストではなく、再生材という価値ある資源を調達するための事業として捉え、収益化を目指すモデル。 |
3.金属資源のサーキュラーエコノミーにおける事例
(1)サブスクリプションサービスで環境負荷の低減

引用:https://clas.style/company/
CLASのサービスは、「所有する」から「利用する」へのシフトを推進することで、企業や個人が持続可能なライフスタイルを実現する手助けをしています。また、未使用製品の再利用を促進し、廃棄物削減や資源効率の向上にもつながっています。
(2)車載用リチウムイオン電池等の再資源化

引用:https://www.pref.saitama.lg.jp/a0507/news/page/news2024050901.html
埼玉県では、家庭から排出される使用済み充電式電池や充電式電池内蔵製品を対象に、リチウムイオン電池などから得られるブラックマス(レアメタルを含む資源)の回収が可能かどうかを検証する試験的な取り組みを進めています。ブラックマス回収までの流れは、以下の通りです。
- 県内の2市に回収ボックスを設置し、市が仕分け作業を行う
- 分別後の車載用リチウムイオン電池等を再資源化している企業へ搬入
- ブラックマス回収の前処理(熱処理)を行う
- ブラックマスを資源として回収し、別場所にて保管
今まで、小型家電には非金属が含まれる上に回収に課題を抱えていましたが、今回の取り組みで、レアメタル(コバルト、ニッケル、リチウムなど)の回収に成功しました。
家庭から出る使用済み充電式電池は、主にごみ処理時などに出火する恐れがあります。今回の検証結果により、適切に処理すれば、ごみ処理時の火災発生を未然に回避できる上に金属資源消費量の低減にもつながります。
(3)使用済家電等から貴金属を回収してリサイクル

引用:https://galdieria.com/news-20240202/
株式会社ガルデリアが開発した微細藻類「硫酸性温泉紅藻ガルデリア」を原料とする貴金属吸着材が、家電などに含まれる貴金属の効率的な回収を可能にしています。この技術は、これまで回収が難しかった低濃度の溶液から貴金属をほぼ完全に回収できる画期的な成果をもたらしています。
たとえば、貴金属が含まれている10ppm未満の薄い溶液に貴金属吸着材を混ぜると、イオン交換樹脂では40%程度しか回収できなかったパラジウムが、100%に近い確率で回収できます。
従来の貴金属回収に使用されていたイオン交換樹脂は石油由来の製品ですが、ガルデリア吸着材を使用することで、石油資源の採掘量削減にも寄与するなど石油資源への依存軽減にも有効です。
4.金属別の資源循環に関する特徴

ここでは、金属別の資源循環に関する特徴についてリサイクル率と用途を踏まえて解説します。
(1)鉄金属(鉄・鋼)
リサイクル率 | 高い |
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主な用途 | 建設資材、自転車、家電製品など |
鉄は磁性を持つため、他の素材と比較して分別が容易であり、リサイクル工程に適しています。リサイクル効率は非常に高く、使用済み製品から新たな鉄金属として再生するのが一般的です。
鉄金属は、その硬さと強度から建築、輸送機器、インフラなど幅広い分野で使用される金属であり、鉄金属のリサイクルを促進することで、資源採掘の削減とエネルギー効率の向上が期待されます。錆びや腐食を防ぐ技術や対策を活用することで、持続可能なリサイクルが可能になります。
(2)非鉄金属
非鉄金属とは、鉄を含まない金属の総称で、アルミニウム、銅、亜鉛、ニッケルなどが含まれます。
これらは軽量で耐腐食性が高いものが多く、電気伝導性や熱伝導性に優れているため、建築材料や電子部品、自動車部品など幅広い分野で活用されています。
①アルミニウム
リサイクル率 | ほぼ100% |
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主な用途 | 飲料缶、自転車部品など |
アルミニウムは何度でもリサイクルが可能で、品質がほとんど劣化しません。そのため、資源採掘や製造工程に伴うエネルギー消費を削減できます。
アルミニウムのリサイクルにおける特徴
- 軽量性・伝導性・成形性・耐久性・不浸透性に優れる
- 飲料缶や自動車部品、建築資材など幅広い用途で活用できる
厚みが薄い場合は強度に課題が生じるため、アルミニウムのリサイクルを行う際には、用途に応じた加工が必要となります。
②鉛
リサイクル率 | 高い |
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主な用途 | バッテリーなど |
鉛の高いリサイクル率は、廃バッテリーの再利用を支え、資源の有効活用と環境負荷軽減に貢献します。
特に自動車や産業用のバッテリーから回収される鉛は、再利用可能な主要な資源として注目されています。リサイクルにおいて、以下の特性を備えます。
鉛のリサイクルにおける特徴
- 融点が低いため、加工が容易
- 資源価値が高いため、リサイクルビジネスにおいて重要な収益源となる
回収された鉛は再び蓄電池に使用されることが多く、クローズドループ型のリサイクルが確立されています。
また、鉛は人体に有害な影響を与える可能性があるため、リサイクル時には適切な安全管理が必要となります。
③銀
リサイクル率 | 高い |
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主な用途 | 電子機器、工業用途など |
銀は空気中で酸化しにくく、金属の中で最も光の反射が大きい素材です。
金に次いで展延性に優れており、加工も容易で、室温でも熱伝導率や電気伝導率が高いなどの特徴があります。リサイクルにおける銀の特性は、以下のとおりです。
銀のリサイクルにおける特徴
- 電子機器や産業廃棄物から効率的に回収可能できる
- 希少価値が高いため、リサイクル銀は産業界において重要な資源となる
電子機器や工業用途に加え、医療用の抗菌剤やセンサー材料としても利用されます。
④金
リサイクル率 | 高い |
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主な用途 | 装飾品、電子機器 |
金は換金性の高さも特徴で市場価値が高く、安定して取引されているため、財産として保有する場合もあります。
金のリサイクルにおける特徴
- 酸やアルカリに溶けることがなく、自然界でも劣化しにくい
- 熱や電気をよく通し、鉄よりも約4倍速く熱を伝える特性がある
金は材質が柔らかいので展延性に優れ、熱伝導率や電気伝導率も高く、鉄の約4倍も温まりやすい特徴があります。
⑤亜鉛
リサイクル率 | 高い |
---|---|
主な用途 | メッキ、鋳造など |
亜鉛は鉄などに比べると融点が低く、鋳造しやすい割には機械的強度があります。
亜鉛のリサイクルにおける特徴
- 鉄などの金属よりも融点が低く、鋳造しやすい
- 寸法精度が求められる自動車部品や家電製品に適する
鉄や鋼に亜鉛を添加することで、防腐効果を発揮します。この特性により、錆びやすい鉄製品を保護する用途でも広く使用されています。
(3)レアメタル
レアメタルは、地球上での存在量が少なく、採掘や精錬が難しい金属の総称です。スマートフォン、電気自動車、航空宇宙産業など、現代社会の高度な技術を支える素材として注目されています。
レアメタルのリサイクルが重要視される理由は、レアメタルの多くが特定の国や地域に偏在しており、供給リスクが高いことにあります。リサイクルを通じて、これらの貴重な資源を効率的に利用することで、持続可能な社会の実現に大きく貢献できます。
①プラチナ
リサイクル率 | 高い |
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主な用途 | 触媒、宝飾品など |
プラチナは耐腐食性や科学的安定性が非常に高く、酸や塩素にも強い耐性を持っています。融点が高いため熱にも強い一方、加工がしやすく、簡単に形状を変えることが可能です。
プラチナのリサイクルにおける特徴
- 水平リサイクルが可能
- 自動車排気ガス触媒や化学工業用触媒、宝飾品など用途が多岐にわたる
プラチナは酸や塩素などに強い耐性があり、科学的な安定性や融点まで高いことが特徴です。融点が高く熱に強い性質を持っている反面、加工がしやすく、比較的簡単に形状を変えることが可能です。
プラチナのリサイクルは環境負荷を抑えつつ、貴金属としての資源効率を高める重要な取り組みとなっています。
②ニッケル
ニッケルは光沢のある銀白色の金属で、レアメタルの一種として広く利用されています。
リサイクル率 | 高い |
---|---|
主な用途 | 合金、電池、調理器具など |
その主な特性として、以下が挙げられます。
ニッケルのリサイクルにおける特徴
- 大気中や海水でも優れた耐食性を発揮し、錆びに強い性質を備える
- 融点が高く、強磁性を持っているため、電池や特殊な合金の製造に適する
ニッケルはリサイクル時にも品質が劣化しにくく、回収されたニッケルは合金や電池材料として再利用可能です。
③チタン
リサイクル率 | 高い |
---|---|
主な用途 | 航空機、自転車など |
チタンは、鉄よりも硬い一方で、軽量な特性を持ち、航空機や自転車フレームなど、高強度と軽量性が求められる製品に使用されています。
チタンのリサイクルにおける特徴
- リサイクルにおいても品質が劣化しにくい
- エネルギー消費を抑えつつ再利用できる
無毒性であり、アレルギーを引き起こすリスクも低く、生体適合性に優れているため、歯科インプラントや人工関節などにも利用されます。
しかし耐熱性に優れているが故に熱伸縮が少なく、加工しづらい面があります。また、原料自体が高価であるため、製品コストが高くなる傾向にあります。
5. まとめ
金属資源におけるサーキュラーエコノミーの実現は、資源の持続可能な利用を確実なものとし、2050年カーボンニュートラル達成に大きく貢献する重要な取り組みです。企業、政府、そして私たち一人ひとりがこの変革の必要性を理解し、それぞれの立場で積極的に行動していくことが、豊かな未来を築く鍵となるでしょう。