EUタクソノミーとは?日本企業に与える影響も解説

EUタクソノミーは、日本企業にとって無視できない規制となりつつあります。環境目標への適合が求められる一方で、適用には複雑な報告義務や厳格な基準が伴うため、対応には慎重な戦略が必要です。

この記事では、日本企業がEUタクソノミーにどう対応すべきか、EUタクソノミーの概要や日本企業に与える影響など、対応策を交えながら詳しく解説します。

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1.EUタクソノミーとは

EUタクソノミーとは、経済活動や融投資が環境面において持続可能かどうかを明確に分類することであり、EU(欧州連合)が定めた規則です。

(1)EUタクソノミーの定義と目的

環境省では、EUタクソノミーを以下のように定義しています。

EUタクソノミーとは、「環境面でサステナブルな経済活動(=環境に良い活動とは何か)」を示す分類
引用元:環境省 EUにおけるサステナビリティ開示関連規則の策定の動き

また、EUタクソノミーの目的は以下の2つです。

  • グリーン、サステナビリティの定義の一貫性、ハーモナイゼーション
  • グリーンウォッシュの防止

ハーモナイゼーションとは、異なる規制や基準を統一・調整することで、国際的な取引や業務の円滑化を図るプロセスです。一方のグリーンウォッシュとは、企業や組織などが「あたかも環境に配慮した取り組みを行っているかのように見せかける行為」です。たとえば、グリーンウォッシュには以下のような事例があります。

  • サステナブルなファッション商品の違法性が疑われた
  • COP27(国連気候変動枠組み条約の締約国会議)を後援しているにもかかわらず、使い捨てペットボトルを生産していた
  • ストローをプラスチック製から紙製に変更しても、回収・リサイクルしていないことが問題視された

(2)EUタクソノミーの環境目標と判定基準

EUタクソノミーには、4つの判定基準と6つの環境目標があります。また、環境目標は2020〜2024年の間に適用が開始されており、EUタクソノミーに取り組む企業は内容を知っておく必要があります。環境省では、4つの判定基準について以下のように定めています。

  1. 6つの環境目的の1つ以上に実質的に貢献する
  2. 6つの環境目的のいずれにも重大な害とならない(※DNSH)
  3. 最低安全策(人権等)に準拠している
  4. 専門的選定基準(上記1・2の最低基準)を満たす
    引用元:環境省 EUにおけるサステナビリティ開示関連規則の策定の動き

※DNSHとは、Do No Significant Harm(環境目標に著しい害を与えないことを意味する原則)の略称です。

判定基準で定めている6つの環境目標とは、以下の通りです。

6つの環境目標サステナブルであるための要件上段:1つ以上に実質的に貢献する下段:いずれにも重大な害とならない(DNSH)
気候変動の緩和再生可能エネルギーの生成・貯蔵・使用やエネルギーの効率改善等により、温室効果ガス排出の回避・減少、除去促進による安定化大量の二酸化炭素の排出
気候変動の適応現在または将来の気候による悪影響の減少、気候変動への悪影響増加の回避現在及び将来の気候による負の影響の増加
水資源と海洋資源の持続可能な利用と保全水資源または海洋資源の良好な状態水または海洋に相当程度有害
循環経済への移行循環経済、廃棄物抑制、リサイクル社会への移行原材料の非効率な使用
汚染の防止と管理汚染からの保全を高度化空気・水・土壌の汚染度合いの大幅な悪化
生物多様性とエコシステムの保全と再生生物多様性や生態系サービスの保全や改善生態系の状況を相当程度に悪化
参考元:環境省 EUにおけるサステナビリティ開示関連規則の策定の動き

判定基準の3つ目にある「最低安全策(人権等)に準拠している」とは、企業がOECDの多国籍企業行動指針国連のビジネスと人権に関する指導原則を実際に守っているかどうかを判定するものです。
つまり、企業が国際的な倫理基準に従って行動し、労働環境や人権を適切に保護しているかを確認することです。

4つ目の「専門的選定基準(6つの環境目標の1・2の最低基準)を満たす」とは、ライフサイクル全体で環境に与える影響や短期的かつ長期的な経済活動の影響を考慮し、質的・量的な基準を用いて科学的根拠に基づいて分析することです。これにより、企業が環境に与える影響を正しく把握でき、持続可能な経済活動の判断基準を確立できます。

循環経済については、以下の記事をご覧ください。

2.EUタクソノミーにおける日本企業への影響と対応策

EUは、世界的にもサステナブル投資分野で先行しており、世界各国の企業や組織に多大な影響を与えます。
そのため、EUタクソノミーの概念はEU域外のグローバル企業にも波及するため、海外に事業展開している日本企業も少なからず影響があります。以下では、日本企業に及ぼす影響と対応策について解説します。

(1)EUタクソノミーの独自基準

EUタクソノミーは、欧州連合が独自に定めた基準であり、EU域外のグローバル企業にも波及します。そのため、EU諸国に関連する日本企業は、少なからず影響を受ける可能性があるので注意が必要です。
特に製造業インフラ関連企業など、環境負荷の高い業種では、欧州基準に沿った対応が急務となり、競争力維持のために戦略的な調整が求められます。

たとえば、EUタクソノミーに適合しない製品・サービスは、EU市場で評価や価値が低下する可能性があります。
さらに経済活動においても、EUが「持続可能でない」と判断した場合、同様に評価(価値)が下がる恐れがあるため注意が必要です。

(2)EUタクソノミーの開示義務

EUタクソノミーの開示義務があるのは、基本的にEU域内の企業です。
ただし、CSRD(企業サステナビリティ報告指令)の対象範囲は年々拡大しており、EU域内に限らず、EU域外の企業にも波及しているので注意が必要です。

そのため、EUタクソノミーに直接関係のない日本企業でも、EUの金融機関や投資家から資金調達している場合、少なからず影響を受ける可能性があります。さらにEUタクソノミーは従来のESG方針とは異なり、具体的な技術評価や事業単位での精査が必要です。そのため、EUに関連する日本企業は、経営戦略や情報開示の見直しが不可欠です。

このように、EUと関連性のある日本企業は、EUタクソノミーの影響を少なからず受けます。
そこで重要になるのが対応策です。主な対応策として、情報開示に向けた正確なデータや必要に応じた情報収集は極めて重要です。

さらにCSRDでは、企業に対して開示データのタグ付けを求めており、情報収集時に併せてデジタル化に向けた対応措置を取れば、より効率的に作業できます。
その他にも、事業の脱炭素化への取り組みも効果的です。事業の脱炭素化とは、温室効果ガス排出量の削減、カーボンニュートラルへの取り組みなどです。

事業の脱炭素化に取り組むことで、持続可能な経営活動として企業の評価が向上し、投資家からの信頼獲得にもつながります。カーボンニュートラルについては、以下の記事をご覧ください。

3.EUタクソノミーの適用範囲

EUタクソノミーの適用範囲について解説します。

(1)適用対象となる企業・金融機関

EUタクソノミーの適用対象について、環境省は以下のように定めています。

ただし、今後はNFRDの更新に伴い、対象範囲が250人超の大企業に拡大する可能性があります。そのため、EU域内で事業展開を検討している日本企業は、NFRDの更新にも注視が必要です。

(2)CSRD(企業サステナビリティ報告指令)との関係

CSRDとは、Corporate Sustainability Reporting Directiveの略称で、企業サステナビリティ報告指令であり、EUが導入している「企業のサステナビリティ開示に関する法令」です。CSRDは、ESRS(欧州サステナビリティ報告基準)に基づいており、ESG(社会・環境・ガバナンス)の各項目で情報開示が必要です。

このESRSで定められた項目には、EUタクソノミーに関する情報開示が随所で求められています。そのため、CSRDの対象となる企業は、CSRDスケジュールに応じたEUタクソノミーへの対応が求められます。

(3)EUタクソノミーとESG投資の関連性

EUタクソノミーは「環境的に持続可能な経済活動を分類する枠組み」であり、ESG投資の透明性向上と基準の明確化に寄与しています。どの経済活動が「環境的に持続可能」なのかを定義することでESG投資の判断基準となり、投資家は企業のESGパフォーマンスをより正確に評価できます。

金融機関は、EUタクソノミーに基づき、投資商品における環境適合性の開示が求められています。これにより、投資家は自身の投資戦略に適合するESG投資を選びやすくなるメリットがあります。
また、企業は、自社の経済活動がどのようにEUタクソノミーに適合しているか、評価と結果の開示義務を負います。投資家は、この情報開示によって企業の環境パフォーマンスをより高い精度で把握できます。
このように、EUタクソノミーはESG投資を支える重要な枠組みであり、投資家・企業・金融機関が連携し、サステナブルな経済活動を促進する基盤を提供しています。ESG投資については、以下の記事をご覧ください。

4.EUタクソノミーへの取り組み方

EUタクソノミーへの取り組みは、企業が持続可能な経済活動を評価し、EUタクソノミーの適合性を確保するために重要なプロセスです。以下の4ステップで進めます。

重要ステップ取り組み内容
(ステップ 1)タクソノミー適格な活動の特定企業は、自社の事業活動のうち、EUタクソノミーに適合するものを特定する「タクソノミー適格」とみなされる活動を特定する現在は気候委任法および補完的気候委任法に含まれる活動が対象今後は欧州委員会が定める新たな規制にも拡大する可能性がある
(ステップ2)技術的スクリーニング基準(TSC)の適合性評価特定した活動がEUタクソノミーの技術的スクリーニング基準(TSC)を満たしているかを評価する環境目標への貢献度や「重大な害を及ぼさない(DNSH)」原則の遵守が含まれる
(ステップ3)最低安全策の遵守確認OECD(経済協力開発機構)が定めた多国籍企業行動指針や国連のビジネスと人権に関する指導原則など、国際的な倫理基準を守っているかを確認する企業の持続可能性の評価が向上する
(ステップ4)情報開示と報告EUタクソノミーに適合する活動について、透明性のある情報開示を行い、投資家やステークホルダーに対して適切な報告を実施するESG投資の判断材料として活用され、企業の持続可能性評価が向上する

企業は、この4ステップで進めればEUタクソノミーの要求事項を満たし、持続可能な経済活動の枠組みに適合できます。

5.EUタクソノミーに関する国内外の動向

EUタクソノミーは、環境的に持続可能な経済活動を分類する枠組みとして、アジア諸国や米国でも、EUタクソノミーを参考にした独自の分類基準の策定が進んでおり、グローバル投資の判断材料としても重要性が高まっています。そこで、ここではEUタクソノミーに関する国内外の動向をご紹介します。

(1)日本国内の動向

日本国内では、EUタクソノミーの基準に対応しつつ、独自のサステナブルファイナンスの枠組みを構築し、持続可能な経済活動を推進しています。主な取り組みは、以下の3つです。

①グリーンファイナンスガイドラインの整備

環境省は「グリーンボンドガイドライン」や「グリーンローン・サステナビリティ・リンク・ローンガイドライン」を策定し、国際基準と整合性を取りつつ、環境配慮型資金調達を促進しています。
グリーンボンドガイドラインおよびグリーンローン・サステナビリティ・リンク・ローンガイドラインの詳細については、環境省の公式サイトをご覧ください。

環境省公式サイト:グリーンボンド及びサステナビリティ・リンク・ボンドガイドライン 

グリーンローン及びサステナビリティ・リンク・ローンガイドライン 2024年度版

②トランジション・ファイナンスの推進

トランジション・ファイナンスとは、企業の脱炭素化への取り組みを支援する資金調達(ファイナンス)手段のことです。
経済産業省は、炭素集約型産業の段階的な脱炭素化を支援する「トランジション・ファイナンス」の指針を策定し、持続可能な経済移行に向けた新たな資金調達手段を提供しています。

③環境情報開示の強化

環境省は、企業のESG情報開示を支援するガイドラインや報告書の作成を推進しています。
この取り組みの目的は、投資家や消費者が環境課題に取り組む企業の評価を容易にし、持続可能な投資の促進につなげることです。参考元:環境省 国内外の政策等の動向について

3つの取り組みにより、日本企業はEU基準との整合性を確保しつつ、持続可能なファイナンスの枠組みを強化しています。

(2)EUタクソノミーに関する海外の動向

諸外国の動向について簡単にご紹介します。

主な動向
インドインド証券取引委員会(SEBI)が、グリーンボンドの資金使途等で用いるための大まかな事業の区分を公表グリーン・ソーシャルタクソノミーを策定中
英国2020年11月、財務相が英国版グリーン・タクソノミーの導入方針を表明政府諮問委員会で検討中
欧州「持続可能な経済活動」等を示すEUタクソノミーを公表足許では拡張案も検討中
オーストラリア2020年11月、国内金融機関等から成るAustralian Sustainable Finance Initiativeが公表したロードマップで、オーストラリア版タクソノミー策定を提言
カナダ産業界・金融界と連携し、カナダ規格協会(CSA)が、多排出8業種を対象にトランジションに関する基準案を策定中
中国2015年、グリーンボンドの発行基準等として、グリーンボンド適格プロジェクトカタログを公表石炭の分類等について、2021年4月に改訂
シンガポール2020年1月、シンガポール通貨管理局(MAS)がトランジション含む経済活動の基準を定義する規則案を公表
マレーシアBank Negara Malaysia(銀行と保険分野の監督当局)が、2021年4月に原則主義を採用した気候変動緩和・適応等を対象とするタクソノミーを作成
参考元:環境省 国内外の政策等の動向について

6.企業が直面する主な課題と解決策

EUタクソノミーに関して、企業が直面する主な課題は4つです。それぞれ解決策とともにみていきましょう。

(1)EUタクソノミー適用の困難性

EUタクソノミーは、環境的に持続可能な経済活動を分類する枠組みですが、企業によっては適用の難易度が高いとされています。報告義務の拡大により、EU域内で事業を展開する企業の子会社も対象となる可能性があり、適切な情報開示が求められます。
また、技術的スクリーニング基準(TSC)や「著しい害を及ぼさない(DNSH)」原則の適用には専門的な評価が必要であり、企業は内部体制の強化や外部専門家との連携を進める必要があります。

(2)KPI開示テンプレートの複雑性

EUタクソノミーのKPI開示テンプレートは情報量が多く、構造が複雑なこともあり、企業の報告負担が大きくなっています。加えて、詳細なガイダンスはあるものの、解釈の曖昧さやデータ比較の難しさも課題の一つです。
KPI開示テンプレート以外の技術的スクリーニング基準(TSC)ミニマムセーフガードの適用にも不明確な点が多く、企業は報告の準備に追加のリソースや専門知識が求められます。ミニマムセーフガードとは、人権・汚職・税制に関する要件であり、企業が適合しない場合、環境改善に貢献していてもサステナブルな経済活動とは認められないことを意味します。

環境目標の指標を示すKPI開示テンプレートの条件を満たしても、ミニマムセーフガードなどの他の基準をクリアしなければ、EUタクソノミーに適合する持続可能な経済活動として認められません。

(3)EUタクソノミーに関する内容の不確実性

EUタクソノミーでは、解釈の曖昧さや情報開示の複雑さに問題があり、企業が対応する上で内容の不確実性が課題となっています。特に欧州委員会からタクソノミーに関する法案などが公表されていますが、環境委任法の更新に関する明確な指針が不足しており、適切な対応策の検討が必要です。

また、ミニマムセーフガード要件やTSCの適用に不確実性があるため、データ収集や報告準備には追加のリソースが求められます。

(4)データ収集と報告の負担

企業は、環境目標への貢献度を定量評価し、KPIの開示が必要です。
しかし、多くの企業にとってデータの収集や評価は難しく、特に中小企業やグローバル企業は、各地域の規制・基準の違いも考慮しなければなりません。そのため、企業は内部体制の強化や専門知識の活用に取り組み、報告負担を軽減する必要があります。

7.まとめ

EUタクソノミーは、日本企業のサステナブルファイナンス戦略や国際競争力に影響を与えています。
従来の規制では、EU域内に限定されていましたが、今後はEU域外にも対象範囲が拡大する可能性があります。そのため、EUに関連のある日本企業は、EUタクソノミーへの対応が求められるため注意が必要です。

監修

循環型社会を目指す最先端の取組をキャッチするメディア「サーキュラーエコノミートレンド」の編集部です!

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